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echire☆echire project 俳句の記録

俳句

半夏生

『リルケ詩集』生野幸吉訳(白凰社2001)より抜粋 * * * * * * * 少年 ぼくはなりたい、夜闇を衝いて 荒馬を駆る騎士のひとりに、 手には松明かかげ、長くほどけた髪さながらに、 まっしぐらに駆るいきおいの、大きな風に焔なびかせ。 小舟のへさきに立…

夏祓

『子規365日』夏井いつき(朝日新聞出版2008)より抜粋 * * * * * * * 其箱のうちのぞかせよ傀儡師 いくたびも雪の深さを尋ねけり あたたかな雨がふるなり枯葎 山桜仁王の腕はもげてけり 葉柳の風は中から起りけり 夕風や牡丹崩るる石の上 とんねるに水…

穴子飯

『だからもう はい、すきですという』服部みれい(ナナロク社2013)より抜粋 * * * * * * * 質問をする これは何のきおく? 空にむかって かみさまに きいた しずかに ひそむ 空 これは何のきおく? 海にむかって かみさまに きいた しずかに 凪る 海 …

キリンレモン

『ぼく、牧水!──歌人に学ぶまろびの美学』伊藤一彦/堺雅人(角川書店2010)より抜粋 * * * * * * * けふもまたこころの鉦をうち鳴しうち鳴しつつあくがれて行く 海底に眼のなき魚の棲むといふ眼の無き魚の恋しかりけり きゆうとつまめばぴいとなくひ…

『〈殺し〉の短歌史』現代短歌研究会編(水声社2010)より抜粋 * * * * * * * 斉藤斎藤「今だから、宅間守」 宗教も文学も特に拾わない匙を医学が投げる夕暮れ 仏にしてから殺したかったが殺してからでも遅くはないから仏にしたい バス停にベンチがあっ…

紫陽花

『詩人のノート』田村隆一(朝日選書1986)より抜粋 etching 食刻法、腐食銅版術後、エッチング《蠟引きの銅版に針で絵などかき、酸で腐食して原版を作る》エッチングによる版画。 「腐刻画」という言葉、そしてその文字に出会った瞬間、ぼくの内部に渦動して…

夏の蝶

『定本 夢野久作全集8』夢野久作(国書刊行会2022)より抜粋 * * * * * * * * * * 〔猟奇歌〕 この夫人をくびり殺して 捕はれてみたし と思ふ応接間かな 抱きしめる その瞬間にいつも思ふ あの泥沼の底の白骨 水の底で 胎児は生きて動いてゐる 母体…

走り梅雨

『パラレルワールドのようなもの』文月悠光(思潮社2022)より抜粋 * * * * * * * * * * 誕生 (前略) たましいが永遠に壊れないならば、 肉体とは抜け殻に過ぎないのか。 死とは、光と影が反転するだけのこと。 地の影に触れるように生まれた手足が …

立夏

『新撰 小倉百人一首』塚本邦雄(講談社文芸文庫2016)より抜粋 * * * * * * * * * * ☆式子内親王 かへりこぬ昔を今とおもひ寢の夢の枕に匂ふたちばな →「おもひ寢」なる簡潔な言葉の第三句が、一首の夢と現を繋ぎ、柑橘の爽やかにゆかしい香を呼び…

鐘朧

『くちびるにウエハース』なかはられいこ(左右社2022)より抜粋 * * * * * * * * * 完璧な春になるまであとひとり 過呼吸の、か、か、過呼吸の、鳥/霧/光 ほしいほしいナイフに映るものぜんぶ (せり、なずな)だれか呼ぶ声(ほとけのざ) 目覚め…

山笑う

『女性とジェンダーと短歌』水原紫苑編(短歌研究社2022)より抜粋 * * * * * * * ムッシュ・ド・パリ/大森静佳 幾人かに死を願われているわれがピアノのごとく黙って立てり 嗚咽するわたしの口のなかの舌まばゆい蛭のごとく反る舌 犬のいたころの暑さ…

花衣

『久保田万太郎俳句集』恩田侑布子編(岩波文庫2021)より抜粋 * * * * * * * 闇の梅ばけものがるたはやりけり 秋風や水に落ちたる空のいろ 枯野はも縁の下までつゞきをり 時計屋の時計春の夜どれがほんと 短夜のあけゆく水の匂かな ほそみとはかるみと…

蝶生る

『ホトトギス─虚子と100人の名句集』稲畑汀子編(三省堂2004)より抜粋 * * * * * * * * * * 星野立子 大佛の冬日は山に移りけり 沈丁の香にそひ上る館かな しんしんと寒さがたのし歩みゆく 下萌えぬ人間それに従ひぬ 障子しめて四方の紅葉を感じを…

春深

『セレクション俳人15/中原道夫集』中原道夫(邑書林2008)より抜粋 * * * * * 辻斬りのあと凍蝶の落ちてゐし 金屏の裏に孵りてまだ飛ばず 船底に黄泉の付きくるおぼろかな おぼろなり貝の足にてふるるもの 肌脱の裏庭に飼ふ禽けもの 蝉しぐれ褪せ放題の…

花の雨

「京大俳句」と「天狼」の時代 平畑静塔俳論集(沖積舎2008)より抜粋 * * * * * * * * * * ■現代俳句の面白さ *虚子の俳句には、所謂モラルというものは乏しい…モラルが無いから無遠慮で自由で、石ころでも葉っぱでも虚子の手にかかると艶を帯びて…

小米花

『細見綾子 花神コレクション俳句』細見綾子(花神社1998)より抜粋 * * * * * * * * * 菜の花がしあはせさうに黄色して 霞む日を戻りてものを言はざりし チューリップ喜びだけを持つてゐる 山茱萸が眼ひらくやうに今に咲く 見たきほど見らるゝ椿にて…

目借時

『定本 石橋秀野句文集』石橋秀野(富士見書房2000)より抜粋 * * * * * * * 初期俳句作品より 蚊柱の別れて消ゆる槻の闇 旅衣とけば扇のはたと落つ 雛納め昼の遊里の灯りけり ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ 前半は『…

百千鳥

『ヘクタール』大森静佳(文藝春秋2022)より抜粋 * * * * * * * 正面の、右の、左の顔があり左がもっとも火をふくむ顔 引き寄せてやがて静かに斬り落とす眠りの奥にあなたの腕を 瑪瑙という文字に酔いつつ読みすすむ頁に夜の翳りふかまる 読み終えて黒…

冴返る

『新世紀女流俳句ワンダーランド』片山由美子・伊丹啓子編(沖積舎1999)より抜粋 * * * * * * * 鬘かざして 水野真由美 あやとりの川を渡るや青薄 真昼野や仏の数が合わぬなり 身を巡る淡き水音九月果つ 星の降る廃車に幼なき者ら棲む 童僧の読経の声…

春の泥

『有夫恋』時実新子(朝日新聞社1987)より抜粋 * * * * * * * かたまりが火の色となり喉にあり 力の限り男を屠る鐘を打つ 女ふたり春のみかんに骨がある 夜の窓拭いて見えないものを見る 円周を歩く悪魔の指示通り 花ゆさりゆさりあなたを殺そうか 青…

春兆す

『貨物船句集』辻征夫(書肆山田2001)より抜粋 * * * * * * * こうべたれ月みぬひとの影法師 つという雨ゆという雨ぽつりぽつり 蟷螂の肩肘張って通りけり 凩や茶碗に浮かぶ魚の鰭 石段の魚くささよ蜻蛉とぶ 杖ついて蟷螂ゆるりと振り向きぬ 春は春路…

実朝忌

『三橋鷹女の100句を読む』川名大(飯塚書店/2022)より抜粋 * * * * * * * 馬ほどの蟋蟀となり鳴きつのる (白骨S16) 花辛夷盛りの梢に縊れたし (諷詠派S23) ふらこゝの天より垂れて人あらず (白骨S25) 白骨の手足が戦ぐ落葉季 (白骨S26) 綿蟲に陽が射…

女正月

『音楽』岡野大嗣(ナナロク社2021)より抜粋 * * * * * * * 映画館をスクリーンまで歩くとき森の枯れ葉を踏みゆくここち 音楽は水だと思っているひとに教えてもらう美しい水 犬がとまる 春なら花見で座れないベンチの前に何かをみてる 片方が世界に落…

破魔弓

『はるかカーテンコールまで』笠木拓(港の人2019)より抜粋 * * * * * * * 秋の日のこんな大きな吹き抜けに誰ひとりひざまずいていなくて うまれたらはこぶしかないからだかな缶入りしるこ入念に振る ゆっくりと柄杓の水を持ちあげて注ぎぬ龍の頭の上…

(17)新年【2015-2020】

* * * * * * * 狛犬や悪意或いは悪を喰む 力足ずいと加勢はいらぬわい 初御空つまりは凧になる途中 地底の水車夢をみる福沸し 白刃はみな美しき凧あがる 初春や村で最古の御文章 初釜に優しき菓子の色添えて スペイドのクイーン目開く春着かな 水底に…

聖夜

『正岡子規──五つの入口』大岡信(岩波書店1995)より抜粋 * * * * * 鳴神の鳴らす八鼓ことごとく敲きやぶりて雨晴れにけり 鳴神の遠音かしこみ戸を閉ぢて蟻の都は雨づつみせり 瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり 藤なみの花をし…

寒の薔薇

『挑発する俳句 癒す俳句』川名大(筑摩書房2010)より抜粋 * * * * * ランプ 富澤赤黄男 ─潤子よお父さんは小さい支那のランプを拾つたよ─ 落日に支那のランプのホヤを拭く やがてランプに戦場のふかい闇がくるぞ 灯はちさし生きてゐるわが影はふとし 靴…

実南天

『山頭火百二十句・道の空』村上護(春陽堂書店1992)より抜粋 どうしようもないわたしが歩いてるゐる 雪へ雪ふるしづけさにをる 生死(しょうじ)の中の雪ふりしきる 何を求める風の中ゆく 砂に足あとのどこまでつづく ゆく春の夜のどこかで時計鳴る 水に影ある…

(16)冬【2020/やがて地獄へ下るとき】

物言わぬ人の口紅冬の霧 寒月や真っ直ぐになる今になる 底冷えのターミナル覚めて見る、夢 ニベア缶冷たし青し朝の卓 藪柑子下がって揺れた小鳥分 穴を掘る遊びをしよう細雪 阪神忌樒の山へ分け入らむ 断崖、瀑布、寒禽やがて見喪う 寒鮒や紅き腑をもつ身の…

(15)冬【2019/Que sais-je?】

月冴ゆるあやかし四方に伸びる影 伝奇本うつ伏せのまま読む冬日 見覚えのある人といて冬紅葉 鯉の口ぼやんと吐きし小春かな 山茶花の谿間音なく前をゆく 冬椿写す少年は少年と 凩や白い柱の建つ宇宙 堰堤で終わる足跡水涸るる 空色の背表紙並べ春隣 虹を吐く…