『新撰 小倉百人一首』塚本邦雄(講談社文芸文庫2016)より抜粋
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かへりこぬ昔を今とおもひ寢の夢の枕に匂ふたちばな
→「おもひ寢」なる簡潔な言葉の第三句が、一首の夢と現を繋ぎ、柑橘の爽やかにゆかしい香を呼びさますあたり、陶然となるばかりだ。
戀ひ戀ひてよし見よ世にもあるべしと言ひしにあらず君も聞くらむ
→かつての和泉式部をも蒼ざめさせるくらゐの、凄じい情熱の吐露は、むしろ愕然とする。
☆鎌倉右大臣(実朝)
來む年もたのめぬ上の空にだに秋風吹けば雁は來にけり
→萬葉調の構へも、新古今調の空疎な詞華や秀句模倣のないところも、まことにめでたく、これこそ實朝の文體と思はれる。
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小倉百人一首と同じ人選で、別の秀句を選ぶ企画。一読した位では褒めているのか貶しているのかすら解らない、難解な塚本節が炸裂している。3〜4頁ごとに完結するので、興味のある歌人から少しずつ読み進めていくしかない。
上掲は私の推し二人。
定家の選(下記)よりは意味が捉えやすい=現代的な感覚に通じる和歌が選ばれている。
† たまの緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする(式子内親王)
‡ 世の中は常にもがもな渚漕ぐあまの小舟の綱手かなしも(実朝)
さしかわす樫、楢、櫟、檜葉、立夏