『ヘクタール』大森静佳(文藝春秋2022)より抜粋
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正面の、右の、左の顔があり左がもっとも火をふくむ顔
引き寄せてやがて静かに斬り落とす眠りの奥にあなたの腕を
瑪瑙という文字に酔いつつ読みすすむ頁に夜の翳りふかまる
読み終えて黒い表紙にあてる手のてのひらは読む夜のつづきを
雪の夜にひとりいっぽん手渡されわたしの斧がいちばんかるい
鼻孔より脳(なずき)ひきずりだすときの恍として手は火照りのさなか
顔の裏で顔のミイラが待っている 眉剃った夜は水を欲しがる
ひらひらと捨てられただろう色褪せた翅、欠けた翅、わがままな翅
やがて翅は朽ちてしまえりゆうぐれを黒ずんでゆく翅の霊たち
しらかみを手に裂いてゆく快感の終わりに昼の月がでている
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
大森静佳氏の第三歌集。
私が選ぶとやっぱりおどろおどろしい…上掲以外にもお薦めが沢山あるので、又どこかで纏めてみたいと思う。
作風は現代詩に近いが、短歌としても正調。所々飛躍が過ぎて置いてけぼりになる。必ずしも全部が上手くいっている訳ではないが、それすらも「ん?」となって面白い。
若手作家の短歌の多くは、アニメーションのようなホワホワした映像が浮かぶのだが、大森氏の場合は静止画があってどこからか静かな音楽が聞こえてくる感じ…解説しようにも語彙が少なくて上手く表現できない…残念無念、もっと勉強しな私。
百千鳥問うあと何周あるか問う