echireeeee

echire☆echire project 俳句の記録

偏愛図書館/2026-28

『百人一首バトル』栗木京子/穂村弘/佐藤弓生/千葉聡/石川美南 編(書肆侃侃房2026)より抜粋

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

栗木京子 選「意味としらべのマリアージュ」

 

わが前の空間に黒きものきたり鳩となりつつ風に浮べり   高安国世『街上』

 

さくらばな陽に泡立つを見守りゐるこの冥き遊星に人と生れて   山中智恵子『みずかありなむ』

 

好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ   東直子『青卵』

 

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす   笹井宏之『ひとさらい』

 

舌だしてわらう子供を夕暮れに追いつかれないように隠した   山崎聡子『青い舌』

 

 

 

穂村弘 選「アバンギャルドの夢」

 

まことかの鸚鵡のごとく息かすかに

看護婦たちはねむりけるかな。   宮沢賢治『新校本宮沢賢治全集』

 

そこだけが黄昏れていて一本の指が歩いてゆくではないか   山崎方代『右左口』

 

繰返すよび名は風に埋れてをさないわれは十の影もつ   船津碇次郎『高踏集』

 

帆船は若く眩しく流れゆき我は水夫の顔を忘れき   中井英夫『暗い海辺のイカルスたち』

 

夕闇にまぎれて村に近づけば盗賊のごとくわれは華やぐ   前登志夫『子午線の繭』

 

 

 

佐藤弓生 選「遠い年、遠い地図」

 

人間の言葉わからぬ日のありて秋グミの実は籠に透きたる   冬野虹『かしすまりあ』

 

ゆうらりとわれをまねける山百合の夜半の花粉に貌塗りつぶす   前登志夫『青童子』

 

暗がりに柱時計の音を聴く月出るまへの七つのしづく   河野裕子『はやりを』

 

世界樹の繁りゆく見ゆ さんさんと太陽風吹く死後の地球に   井辻朱美『水族』

 

穂波 このさきに心臓ひとつもなしと聴診器を胸から掴み去る   高柳蕗子『潮汐性母斑通信』

 

 

 

千葉聡 選「失われた名歌を求めて」

 

岡に来て両腕に白い帆を張れば風はさかんな海賊のうた   佐藤史『魚歌』

 

桜散る川沿いにひと群れながら私たちみな川の見る夢   小島なお『展開図』

 

終バスにふたりは眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて   穂村弘『シンジケート』

 

月を洗えば月のにおいにさいなまれ夏のすべての雨うつくしい   井上法子『永遠でないほうの犬』

 

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか   河野裕子『森のやうに獣のやうに』

 

 

 

石川美南 選「加速する時間/膨らむ時間」

 

次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く   奥村晃作『三齢幼虫』

 

肉声をはるかに聴きてくだりゆく霧の運河にひたる石階   春日井建『未青年』

 

殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉 ゆけ   水原紫苑『びあんか』

 

死者なべて身代はりなれば夕かげを羽織れるながき列に加はる   川野芽生『星の篏め殺し』

 

重苦しき絵

から放たれ

はなやかに

日傘ひらく

われもわれらも   岡井隆『伊太利亜』

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

好きな歌人が選ばれているとオッとなり、でもなんでこの歌なの〜?となり、並べてみると五人の好みがよくわかる大変面白い企画でした。又違う選者でもやって欲しい!

 

 

 

f:id:echireeeee:20260712193931j:image

 

偏愛図書館/2026-27

『恋のすべて』くどうれいん/染野太朗(扶桑社2025)より抜粋

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

濯ぐほどわからなくなるこの皿の白いひかりのどこまでが泡

 

えごの花白くからだに降り積もる平らなところから順番に

 

背を首を抱えてついてゆくときの瞼の裏のひかりの膨張

 

やわらかいものから燃えてしまうからどのくちばしも舌は空洞

 

くるぶしに草はこすれて夜のにおい川のにおいをからだに満たす

 

/くどうれいん

 

 

 

とても旧いさびしさなのにたまに手を沈めてしまうあたたかいから

 

すぐに顔を近づけていた始まりが梔子のようにあらわれたとき

 

/染野太朗

 

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

 

 

f:id:echireeeee:20260623124351j:image

 

偏愛図書館/2026-26

『短歌のガチャポン、もう一回』選・解説/穂村弘(小学館2025)より抜粋

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

東京は大き魔なれば魔のひとりわれのくるまの迅速なりき   /葛原妙子

 

骨くらい折っていいのにその指で本のページをめくる手つきで   /二階堂奥歯

 

これごっほ ごっほのみみよ これごっほ ごっほのみみよ がかのごっほの   /笹井宏之

 

底知れぬ謎に対ひてあるごとし

死児のひたひに

またも手をやる   /石川啄木

 

抱擁ののちなる闇ゆ近付かむ花とおぼしき薄明かりまで   /鳴海宥

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

 

『ふと思い出して嬉しくなったり、たまたま目に飛び込んできて「いいな」と思った歌を集めてみました。楽しんでいただければ幸いです。』

 

あとがきの穂村弘さんの言葉。「いいな」の傾向が結構自分と似てて、隠しきれない闇があるよね…と思うなどしました。

 

 

 

f:id:echireeeee:20260611215517j:image

 

 

偏愛図書館/2026-25

『星のうた』左右社編集部編(左右社2028)より抜粋

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

おびただしい星におびえる子もやがておぼえるだろう目の閉じ方を   佐藤弓生

 

静寂に宇宙が軋む この星も見えざる腕の球体関節   田村穂積

 

わたくしを一人忘れてゆく船の火星をめざす軌跡がきれい   鳥さんの瞼

 

星はただそこにあるだけ握られて燃えている右手がここにあるだけ   馬場めぐみ

 

青色のかけらが星からふってくるふってくるのをよけてよろめく   早坂類

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

f:id:echireeeee:20260609170806j:image

 

 

偏愛図書館/2026-24

『デデバグ』なべとびすこ(左右社2025)より抜粋

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

君は白い床にゆっくりしゃがみこみ見えない汚れを執拗に拭く

 

写真には咲いてる姿だけがあるどんな自分もほんとうじゃない

 

水たまりに自分の影が映り込む数時間後になくなる自分

 

災いから逃れるように飛んだとき自分の羽のサイズがわかる

 

死にそうで死なないままでいてほしい ウォーター 掴まれた手で触った

 

トンネルを抜けても僕は僕のままさっき見えなかった海が見える

 

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

『デデバグ』てどういう意味?ヒントはこの一首。

 

再起動して治るバグ 原因を探さないまま打ったEnter

 

テーマ毎に連歌で構成されており、ナラティブ化を目指しているのが窺える。ちょいちょい大阪弁が顔をだすのが嬉しい。

 

 

 

 

f:id:echireeeee:20260514184201j:image

 

 

 

偏愛図書館/2026-23

『俳句とともに わが半生の記』 宇田喜代子/神野紗希(朔出版2025)より抜粋

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

母戻るかならず麦のかなたより

麦よ死は黄一色と思いこむ

死螢夜はうつくしく晴れわたり

青野飛ぶ男女鳴石を懐に

峠より無限夜長のはじまりぬ

八月の窓の辺にまた象が来る

夏海の黒塊に目玉千も万も

八月の赤子はいまも宙を蹴る

千年を還せ揚羽の眼を還せ

春寒の廊下の奥に立つてみる

 

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

 

インタビューの書籍化。

色々勉強になったが、最後の方で桂信子の言葉として、「俳句はたかだか知れています。名前を売りたいなら俳句と違うことをなさいませ」と纏めていたのが面白い。正しく俳人らしい物の言い様であり、師匠=目標を選ぶことの難しさがこの一節に込められている。

 

 

 

f:id:echireeeee:20260623115331j:image

 

偏愛図書館/2026-22

『卵降る』小島なお(左右社2025)より抜粋

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

尾の代わりの両手を垂らし生きている時間をそっと床に逃がせり

 

夕焼けの果てにかがやき立つ鏡 骨になるまで自分を見つむ

 

指一本であなたとすぐにわかるから 花一片ですぐにわかるから

 

半透明の付箋そよがすこの本を泣きたくなっている顔に乗す

 

泡だてる石鹸に手はさかのぼり続ける花の底の平安

 

紫陽花の首にするどく触れている刃うなじに陽射しが重い

 

斬首ののち残る視界に立っているみずからの脚 草のあわいに

 

木剣を撲つ珠 声に追い詰められ声の重石に頭を垂れる

 

てのひらで握れば火傷する魚を握り火傷をさせる春の池

 

鏡なす葉と葉の擦れあうなかを運ばれてゆく馬上の空位

 

 

 

 

 

 

ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ

 

 

第四歌集。モノローグ、切ない

 

 

f:id:echireeeee:20260609170739j:image