『リルケ詩集』生野幸吉訳(白凰社2001)より抜粋
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少年
ぼくはなりたい、夜闇を衝いて
荒馬を駆る騎士のひとりに、
手には松明かかげ、長くほどけた髪さながらに、
まっしぐらに駆るいきおいの、大きな風に焔なびかせ。
小舟のへさきに立つように、先頭にぼくは立ちたい、
たかだかと、解けひろがった旗のように。
すがたは暗く、しかも金いろのかぶとをうがち、
かぶとは不安に煌めくのだ。しりえには
十人の騎士が隊伍組み、同じ闇の装束をして
同じい不安にゆらぎきらめくかぶとをかぶる、
玻璃のように透きとおり、ときには暗く、ふるく、盲いるかぶとを。
ぼくのそばではひとりが立って、稲妻をはなち叫喚する
トランペットを吹き鳴らし、ぼくらのゆくてにひろがりを吹く。
まっくらな孤独のひろがりを吹き立てる。
その孤独の闇を、あただしい幻のようにぼくらは疾駆ける。
家々はぼくらのうしろに膝を突き、
通りは斜めに迎えては伏し、
逃げようとする広場をぼくらはらひっつかむ、
そしてぼくらの馬は豪雨のようにとどろく。
Der Knabe
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
形象詩集/時禱詩集/新詩集/後期詩集より、代表詩を収録。巻末に生野氏の解説「リルケの人と作品」「鑑賞ノート」が続く。
上掲の詩は、子供の頃に読んだ漫画(?)の中で出会い、強烈なインパクトを受けた「私にとってのリルケ」である。
リルケの詩は、突然に、しかも自然に始まり、詩の空間がうまれ、展開してゆく。美しいと見せかけて奇怪。異質な死生観や方策は批判を受けやすく、時代によりその評価は乱高下した。
又、リルケは俳句の詩形に興味を持ち、「ハイカイ」と題するフランス語による三行詩を制作している。その辺りをもう少し深掘りしてみたいと思う。
鐘の音は空に一列半夏生