物言わぬ人の口紅冬の霧
寒月や真っ直ぐになる今になる
底冷えのターミナル覚めて見る、夢
ニベア缶冷たし青し朝の卓
藪柑子下がって揺れた小鳥分
穴を掘る遊びをしよう細雪
阪神忌樒の山へ分け入らむ
断崖、瀑布、寒禽やがて見喪う
寒鮒や紅き腑をもつ身の内に
ふるさとの言葉エンドロールの雪
閉じた海 (吉野弘)
ラスカー・シューラーは
こう歌った。
「私の眼のうしろに海がある
それをみんな私は泣いてしまわなければ
ならない」と。
私は訪ねる。
くらしの合い間は小出しに泣いて
「死」が訪れたとき 一挙に
海を泣きつくすのでしょうか 人は
海が干潟になるまで?
海が答える。
いいえ 海を泣きつくすまで
死に待ってもらう特権は 誰にもなくて
海は やはり
死者の眼のうしろに残る筈。