『女性とジェンダーと短歌』水原紫苑編(短歌研究社2022)より抜粋
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ムッシュ・ド・パリ/大森静佳
幾人かに死を願われているわれがピアノのごとく黙って立てり
嗚咽するわたしの口のなかの舌まばゆい蛭のごとく反る舌
犬のいたころの暑さに眼球がどろりと重たくなればねむりぬ
鯉がいる 鯉の臓腑のうちがわのような暗さの水面にいる
夢のなかでなにかを縫っていた両手痺れたままの指から目覚む
霧を踏むような心地でゆっくりととてもゆっくりと梯子降りたり
そのほかのたくさんの首 くちづけのためかたむけたそれぞれの首
産み、産ませ、生きさせ、殺し、殺させて真っ赤なダリア破れはじめる
烈火のごとく怒るわたしが葉桜の幹のなかへと消えてしまった
われの死にそろそろ手足が生えてきて腕力脚力きらきらとせり
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
短歌雑誌の特集記事に、座談会、作品、評論を加えた書籍版。巻頭は大森静佳さんの作品100首。
座談会の中で水原さんが、
"今になって断崖絶壁に生きている若い人たちの中に入って、同じくらい苦しい顔をしようたってそりゃ無理よ。社会的な基盤が全然違うんだもん”
という発言をされていて、ちょっと引っかかってしまった。ここだけ切り取ると話題の主旨からは離れるのだが…水原さんは何歳を『若い人』と想定しているのだろう?
新入社員を見ていても、10〜20代は少子化で大切に育てられて呑気でいいよな…と思うことはあっても、特段自分と住む世界が違うとは思わない。年齢に関係なく、皆同じ位断崖絶壁で苦しい顔をして、又は隠して生きている。
山笑う疾く人類の列出でよ