echireeeee

echire☆echire project 俳句の記録

短歌

偏愛図書館/2024-01

『荻窪メリーゴーランド』木下龍也・鈴木晴香(太田出版2023)より抜粋 * * * * * * * * * * * * * * * 君を撮るためのカメラがあたたまる太腿のうえ 海まで遠い (ひらくたび) ふたりふざけて切り合った髪の先端から火の匂い 私だけ結末を知っ…

漱石忌

『いま二センチ』永田紅(砂子屋書房2023)より抜粋 * * * * * * * * * * 眩しさに耳塞がれているような昼下がりひ、ふ、み、蝶がゆく 重心を分かちてのちも水紋が交わるようにひびきあいたり 脱皮して洗濯バサミにみずからの影干すような平面の昼 …

銀杏落葉

『ウォーターリリー』川野里子(短歌研究社2023)より抜粋 * * * * * * * * * * (ていねいにするどく爪で折つてゆく黙らせるための鶴のくちばし) (折つて折つてちひさくなつたら指先で押さへて ここが心臓あたり) 水掬ふとひらく掌アーナンダこの奇…

冬花火

『渡辺のわたし 新装版』斉藤斎藤(港の人2016)より抜粋 * * * * * * * * * * 君の落としたハンカチを君に手渡してぼくはもとの背景にもどった いつまでも手を振りつづけてたいつまでもいつまでも手は見えつづけてた 蛇口をひねりお湯になるまで見…

雪催

『落合直文の百首』梶原さい子(ふらんす堂2023)より抜粋 * * * * * * * * * * 名もしれぬちひさき星をたづねゆきて住まばやと思ふ夜半もありけり 夕暮れを何とはなしに野にいでて何とはなしに家にかへりぬ 緋縅の鎧をつけて太刀はきてみばやとぞ思…

銀木犀

『快樂』水原紫苑(短歌研究社2022)より抜粋 * * * * * * * * * * 紫のきはまるところ藤ならむ欲望の房ながく垂れ嘔吐を誘ふ 雨の日は死にたくなきに紫の賜物の傘ささば煉獄 狼が犬となるまでひさかたの銀河にくらき壁見ゆるまで 何者と院に問はれ…

秋彼岸

『水原紫苑の世界』齋藤愼爾編集統括(深夜叢書社2021)より抜粋 * * * * * * * * * * 『びあんか』 菜の花の黄溢れたりゆふぐれの素焼の壺に処女のからだに 殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉 ゆけ 宥されてわれは生みたし 硝子・貝…

白木槿

『天國泥棒 短歌日記2022』水原紫苑(ふらんす堂2023)より抜粋 * * * * * * * * * * わたくしは鳥かも知れず恐龍の重きからだを感ずるあした きさらぎはものうごく月、花の木がこころたしかむるかそけきうごき フリージアは魚の泪に活くべしとこゑ…

精霊蜻蛉

『俳句ミーツ短歌』堀田季何(笠間書院2023)より抜粋 * * * * * * * * * * 八月を静かな巨船とも思ふ みちのくの中にみつしり露の玉 人体の淋しくなれば望の夜 胃の底に沈黙の水十三夜 いきいきと餅は焼かれて父の国 (俳句生成プログラム 楽園VOL.0…

大暑

『山崎方代の百首』藤島秀憲(ふらんす堂2023)より抜粋 * * * * * * * * * * ゆくところ迄ゆく覚悟あり夜おそくけものの皮にしめりをくるる まっくらな電柱のかげにどくだみの花が真白くふくらんでいる 夜おそく出でたる月がひっそりとしまい忘れし…

キリンレモン

『ぼく、牧水!──歌人に学ぶまろびの美学』伊藤一彦/堺雅人(角川書店2010)より抜粋 * * * * * * * けふもまたこころの鉦をうち鳴しうち鳴しつつあくがれて行く 海底に眼のなき魚の棲むといふ眼の無き魚の恋しかりけり きゆうとつまめばぴいとなくひ…

『〈殺し〉の短歌史』現代短歌研究会編(水声社2010)より抜粋 * * * * * * * 斉藤斎藤「今だから、宅間守」 宗教も文学も特に拾わない匙を医学が投げる夕暮れ 仏にしてから殺したかったが殺してからでも遅くはないから仏にしたい バス停にベンチがあっ…

夏の蝶

『定本 夢野久作全集8』夢野久作(国書刊行会2022)より抜粋 * * * * * * * * * * 〔猟奇歌〕 この夫人をくびり殺して 捕はれてみたし と思ふ応接間かな 抱きしめる その瞬間にいつも思ふ あの泥沼の底の白骨 水の底で 胎児は生きて動いてゐる 母体…

山笑う

『女性とジェンダーと短歌』水原紫苑編(短歌研究社2022)より抜粋 * * * * * * * ムッシュ・ド・パリ/大森静佳 幾人かに死を願われているわれがピアノのごとく黙って立てり 嗚咽するわたしの口のなかの舌まばゆい蛭のごとく反る舌 犬のいたころの暑さ…

百千鳥

『ヘクタール』大森静佳(文藝春秋2022)より抜粋 * * * * * * * 正面の、右の、左の顔があり左がもっとも火をふくむ顔 引き寄せてやがて静かに斬り落とす眠りの奥にあなたの腕を 瑪瑙という文字に酔いつつ読みすすむ頁に夜の翳りふかまる 読み終えて黒…

女正月

『音楽』岡野大嗣(ナナロク社2021)より抜粋 * * * * * * * 映画館をスクリーンまで歩くとき森の枯れ葉を踏みゆくここち 音楽は水だと思っているひとに教えてもらう美しい水 犬がとまる 春なら花見で座れないベンチの前に何かをみてる 片方が世界に落…

破魔弓

『はるかカーテンコールまで』笠木拓(港の人2019)より抜粋 * * * * * * * 秋の日のこんな大きな吹き抜けに誰ひとりひざまずいていなくて うまれたらはこぶしかないからだかな缶入りしるこ入念に振る ゆっくりと柄杓の水を持ちあげて注ぎぬ龍の頭の上…

聖夜

『正岡子規──五つの入口』大岡信(岩波書店1995)より抜粋 * * * * * 鳴神の鳴らす八鼓ことごとく敲きやぶりて雨晴れにけり 鳴神の遠音かしこみ戸を閉ぢて蟻の都は雨づつみせり 瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり 藤なみの花をし…

木守柿

『近現代詩歌』短歌/穂村弘選(河出書房新社2016)より抜粋 宮沢賢治(宮沢賢治全集/筑摩書房1996) まことかの鸚鵡のごとく息かすかに 看護婦たちはねむりけるかな。 いざよひの 月はつめたきくだものの 匂をはなちあらはれにけり。 雲はいまネオ夏型にひかりし…

穴惑

* * * * * * * * * * 白い羽根が一枚堕ちてゆく 北窓は光に満ち 遠く工事現場のクレーンが動き始める 窓際で豆苗はすくすくと育つ シンクの中のお皿とお箸、マグカップ たったこれだけの物を洗うことができなかった 昨日の自分を嗤え 詰め替えない…

(12)秋【2020/やがて地獄へ下るとき】

ファーブルの帽子暗坂虫の声 葛の葉や帽子の裏の頭文字 しゃがみ込む人影蒼く酔芙蓉 鶏頭咲く小さな駅舎瓦屋根 塔、館、城塞越えて秋彼岸 天高し誰も凭れていない窓 嚔して人へと戻る刈田かな 金木犀歪んだ列の最後尾 琴柱窓ひそりと開く草の花 黒髪を広げて…