『はるかカーテンコールまで』笠木拓(港の人2019)より抜粋
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秋の日のこんな大きな吹き抜けに誰ひとりひざまずいていなくて
うまれたらはこぶしかないからだかな缶入りしるこ入念に振る
ゆっくりと柄杓の水を持ちあげて注ぎぬ龍の頭の上へ
やさしいだけの王国が欲し領土より旗より雪の呼び名を決める
いまでも、と言う間に過ぎる今があり錦林車庫に市バスは眠る
美樹さやかに僕はなりたい鱗めく銀の自転車曳くゆうまぐれ
僕を物語るひとなし 喉首を空にさらして橋を渡りぬ
はつゆめにわたくしは鹿 種を食み露の体に霧の角もつ
朝霜にカーブミラーは閉ざされて心の底を鹿が歩めり
手は花は手は手からこぼれておはなしのようにしかもう思いだせない
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
笠木拓氏の第一歌集。
美しい詩の言葉が並ぶ中、面白いなと思ったのは上掲のあたり。基調は物悲しいが悲壮感はなく、安定した芯の強さを感じる。
最近感じていることなのだが、笠木氏等ぎりぎり昭和生まれの世代(40〜30代半ば)と平成生まれの世代(30代前半〜)の歌人で、若干作風に違いがあるようだ。デジタルネイティブという切り口で比較してよいのかまだ見通せないが、突出した個性が出てくるのは下の世代の可能性が高い。
破魔弓の弦鳴り白い箭が走り