『パラレルワールドのようなもの』文月悠光(思潮社2022)より抜粋
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誕生
(前略)
たましいが永遠に壊れないならば、
肉体とは抜け殻に過ぎないのか。
死とは、光と影が反転するだけのこと。
地の影に触れるように生まれた手足が
影と共に自立し、歩き出し、抱き合って
やがて影を失い、光へ取り込まれていく。
それが死、ということなのか──。
まるで、ちいさく硬いさなぎから
蝶が放たれるように。
(後略)
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
文月悠光氏の第4詩集。2016年〜2022年に執筆した中から26篇を収録。コロナ禍の時事詠も多く含まれるが、既に懐かしく、そんな大袈裟な表現しなくても…とすら思えてくるから不思議、人間の記憶とはあてにならないものである。
上掲の「誕生」は、二階堂奥歯氏の遺作、遺品、ご遺族の姿から生まれた詩。
「地の影に触れるように生まれた手足」というイメージが、文月さんの観ている世界の儚さ、危うさを現している。惹かれ過ぎないように気をつけないと、奥歯さんの著書『八本脚の蝶』の世界は劇薬だ。
面灯り仄暗いまゝ走り梅雨