『細見綾子 花神コレクション俳句』細見綾子(花神社1998)より抜粋
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菜の花がしあはせさうに黄色して
霞む日を戻りてものを言はざりし
チューリップ喜びだけを持つてゐる
山茱萸が眼ひらくやうに今に咲く
見たきほど見らるゝ椿にてかなし
まぶた重き仏を見たり深き春
春雷や胸の上なる夜の厚み
木蓮の一片を身の内に持つ
木蓮のため無傷なる空となる
女身仏に春剥落のつづきをり
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
前半は第一句集『桃は八重』、後半に林徹選450句、中村苑子氏と桂信子氏の追悼文が収録されている。今回は春の句から選んでみた。
細見綾子は明治40年(1907年)生まれなので、石橋秀野の2歳上。この人の遍歴も面白い。67歳で刊行した『技藝天』あたりがピークで、平成9年90歳で亡くなっている。
ありきたりな写生句が続く中で、時折りずばりと言い切る強い句が現れる。簡単そうでなかなかこうは作れない。
作者名を隠してもなんとなく女性作家と解るのも、この人の特徴の一つ。秀野とは違う意味で「華がある」のである。
みっしりと亡者は立てり小米花