echireeeee

echire☆echire project 俳句の記録

2023-01-01から1年間の記事一覧

紫陽花

『詩人のノート』田村隆一(朝日選書1986)より抜粋 etching 食刻法、腐食銅版術後、エッチング《蠟引きの銅版に針で絵などかき、酸で腐食して原版を作る》エッチングによる版画。 「腐刻画」という言葉、そしてその文字に出会った瞬間、ぼくの内部に渦動して…

夏の蝶

『定本 夢野久作全集8』夢野久作(国書刊行会2022)より抜粋 * * * * * * * * * * 〔猟奇歌〕 この夫人をくびり殺して 捕はれてみたし と思ふ応接間かな 抱きしめる その瞬間にいつも思ふ あの泥沼の底の白骨 水の底で 胎児は生きて動いてゐる 母体…

走り梅雨

『パラレルワールドのようなもの』文月悠光(思潮社2022)より抜粋 * * * * * * * * * * 誕生 (前略) たましいが永遠に壊れないならば、 肉体とは抜け殻に過ぎないのか。 死とは、光と影が反転するだけのこと。 地の影に触れるように生まれた手足が …

立夏

『新撰 小倉百人一首』塚本邦雄(講談社文芸文庫2016)より抜粋 * * * * * * * * * * ☆式子内親王 かへりこぬ昔を今とおもひ寢の夢の枕に匂ふたちばな →「おもひ寢」なる簡潔な言葉の第三句が、一首の夢と現を繋ぎ、柑橘の爽やかにゆかしい香を呼び…

鐘朧

『くちびるにウエハース』なかはられいこ(左右社2022)より抜粋 * * * * * * * * * 完璧な春になるまであとひとり 過呼吸の、か、か、過呼吸の、鳥/霧/光 ほしいほしいナイフに映るものぜんぶ (せり、なずな)だれか呼ぶ声(ほとけのざ) 目覚め…

山笑う

『女性とジェンダーと短歌』水原紫苑編(短歌研究社2022)より抜粋 * * * * * * * ムッシュ・ド・パリ/大森静佳 幾人かに死を願われているわれがピアノのごとく黙って立てり 嗚咽するわたしの口のなかの舌まばゆい蛭のごとく反る舌 犬のいたころの暑さ…

花衣

『久保田万太郎俳句集』恩田侑布子編(岩波文庫2021)より抜粋 * * * * * * * 闇の梅ばけものがるたはやりけり 秋風や水に落ちたる空のいろ 枯野はも縁の下までつゞきをり 時計屋の時計春の夜どれがほんと 短夜のあけゆく水の匂かな ほそみとはかるみと…

蝶生る

『ホトトギス─虚子と100人の名句集』稲畑汀子編(三省堂2004)より抜粋 * * * * * * * * * * 星野立子 大佛の冬日は山に移りけり 沈丁の香にそひ上る館かな しんしんと寒さがたのし歩みゆく 下萌えぬ人間それに従ひぬ 障子しめて四方の紅葉を感じを…

春深

『セレクション俳人15/中原道夫集』中原道夫(邑書林2008)より抜粋 * * * * * 辻斬りのあと凍蝶の落ちてゐし 金屏の裏に孵りてまだ飛ばず 船底に黄泉の付きくるおぼろかな おぼろなり貝の足にてふるるもの 肌脱の裏庭に飼ふ禽けもの 蝉しぐれ褪せ放題の…

花の雨

「京大俳句」と「天狼」の時代 平畑静塔俳論集(沖積舎2008)より抜粋 * * * * * * * * * * ■現代俳句の面白さ *虚子の俳句には、所謂モラルというものは乏しい…モラルが無いから無遠慮で自由で、石ころでも葉っぱでも虚子の手にかかると艶を帯びて…

小米花

『細見綾子 花神コレクション俳句』細見綾子(花神社1998)より抜粋 * * * * * * * * * 菜の花がしあはせさうに黄色して 霞む日を戻りてものを言はざりし チューリップ喜びだけを持つてゐる 山茱萸が眼ひらくやうに今に咲く 見たきほど見らるゝ椿にて…

目借時

『定本 石橋秀野句文集』石橋秀野(富士見書房2000)より抜粋 * * * * * * * 初期俳句作品より 蚊柱の別れて消ゆる槻の闇 旅衣とけば扇のはたと落つ 雛納め昼の遊里の灯りけり ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ 前半は『…

百千鳥

『ヘクタール』大森静佳(文藝春秋2022)より抜粋 * * * * * * * 正面の、右の、左の顔があり左がもっとも火をふくむ顔 引き寄せてやがて静かに斬り落とす眠りの奥にあなたの腕を 瑪瑙という文字に酔いつつ読みすすむ頁に夜の翳りふかまる 読み終えて黒…

冴返る

『新世紀女流俳句ワンダーランド』片山由美子・伊丹啓子編(沖積舎1999)より抜粋 * * * * * * * 鬘かざして 水野真由美 あやとりの川を渡るや青薄 真昼野や仏の数が合わぬなり 身を巡る淡き水音九月果つ 星の降る廃車に幼なき者ら棲む 童僧の読経の声…

春の泥

『有夫恋』時実新子(朝日新聞社1987)より抜粋 * * * * * * * かたまりが火の色となり喉にあり 力の限り男を屠る鐘を打つ 女ふたり春のみかんに骨がある 夜の窓拭いて見えないものを見る 円周を歩く悪魔の指示通り 花ゆさりゆさりあなたを殺そうか 青…

春兆す

『貨物船句集』辻征夫(書肆山田2001)より抜粋 * * * * * * * こうべたれ月みぬひとの影法師 つという雨ゆという雨ぽつりぽつり 蟷螂の肩肘張って通りけり 凩や茶碗に浮かぶ魚の鰭 石段の魚くささよ蜻蛉とぶ 杖ついて蟷螂ゆるりと振り向きぬ 春は春路…

立春大吉

『石橋秀野の100句を読む』山本安見子(飯塚書店2010)より抜粋 * * * * * * * * 木犀にとほき潮のみちにけり 望遠鏡かなし枯枝頬にふるゝ 風花やかなしびふるき山の形 夜を寒み髪のほつれの影となる 小夜時雨枢おとして格子うち 西日照りいのち無惨に…

実朝忌

『三橋鷹女の100句を読む』川名大(飯塚書店/2022)より抜粋 * * * * * * * 馬ほどの蟋蟀となり鳴きつのる (白骨S16) 花辛夷盛りの梢に縊れたし (諷詠派S23) ふらこゝの天より垂れて人あらず (白骨S25) 白骨の手足が戦ぐ落葉季 (白骨S26) 綿蟲に陽が射…

細雪

『岡井隆と現代短歌』加藤治郎(短歌研究社2021)より抜粋 * * * * * * * 楕円しずかに崩れつつあり焦点のひとつが雪のなかに没して 蒼穹は蜜かたむけてゐたりけり時こそはわがしづけき伴侶 手をだせばとりこになるぞさらば手を、近江大津のはるのあは…

女正月

『音楽』岡野大嗣(ナナロク社2021)より抜粋 * * * * * * * 映画館をスクリーンまで歩くとき森の枯れ葉を踏みゆくここち 音楽は水だと思っているひとに教えてもらう美しい水 犬がとまる 春なら花見で座れないベンチの前に何かをみてる 片方が世界に落…

破魔弓

『はるかカーテンコールまで』笠木拓(港の人2019)より抜粋 * * * * * * * 秋の日のこんな大きな吹き抜けに誰ひとりひざまずいていなくて うまれたらはこぶしかないからだかな缶入りしるこ入念に振る ゆっくりと柄杓の水を持ちあげて注ぎぬ龍の頭の上…

(17)新年【2015-2020】

* * * * * * * 狛犬や悪意或いは悪を喰む 力足ずいと加勢はいらぬわい 初御空つまりは凧になる途中 地底の水車夢をみる福沸し 白刃はみな美しき凧あがる 初春や村で最古の御文章 初釜に優しき菓子の色添えて スペイドのクイーン目開く春着かな 水底に…