2022-01-01から1年間の記事一覧
『定本多田智満子詩集』 多田智満子(砂子屋書房1994)より抜粋 水のひと すべては水であるのか ひとよ わたしは洩らしてしまいそうだ 夢のなかで あなたを さぐられながら さぐっている うかびながら うかべている うすいまぶたに はなびらをください (声は絵…
『現代女性詩人論』中村稔(青土社2021)より抜粋 闇 多田智満子 まっくらな夜空に 薔薇が充満している 幾万もの薔薇がうごめいている わたしにはそれがわかる うなじに落ちるこの重い夜露が ひしめきあう薔薇の汗だということが 石垣りん、茨木のり子、多田智…
『その瞬間 創作の現場ひらめきの時』黛まどか(角川学芸出版2010)より抜粋 さくらさくらもらふとすればのどぼとけ 見送って沈丁の闇残りけり 水中花水が疲れてゐたりけり 七夕の空を映して忘れ潮 ひとつ灯に父母のゐる稲の花 ☆────────── 自選自解100句。14…
ゴールデンウィーク中に引越してこられた方が多いのか、マンションのゴミ置き場が連日パンパンになっている。 びっくりしたのが、不透明黒のゴミ袋で出している人がいたことだ。しかも中身は空き缶?ペットボトル?すぐ横に分別ボックスがあるのに…どこから…
五月雨や渡り廊下に朽木の香 空き席へ鳥の声降る青嵐 木下闇顔なき人の背の高さ ゆらゆらとうろくず集う夏野かな 夕焼を呑む恐竜うすむらさき 藪蚊来て夜更けの水に誘わるる 水妖の登るきざはし半夏生 夏痩せの少女うたたね消え易し 松葉牡丹赤くひろがる原…
短夜の溜息、罠、縦に流れる 薄暑光サプリメントを撒き散らす 例えば蚕豆この色はこの形 招く手の長さ怖ろし花菖蒲 てのひらに目高世界が覗き込む 水草の花ゆうるりと神隠し にんげんに化けて気散じ夏の川 有るはずのたてがみ宙に振り大暑 青蜥蜴石段どこへ…
荒梅雨に人、人でなきもの渡る 白南風や顔認証で開く本 地図にない向日葵畑風が立つ 茅の輪くぐり影は主人を連れ帰り 驟雨来る軒先朽ちて屋敷神 繊月がノノと答える洗い髪 離岸流幾たび生まれ夏の闇 檜扇の影心もち身を傾げ 今一度顔確かめる花火かな 日覆の…
ここで死ぬことにした蝉 子が拾う 交差点縫い止められる影の濃さ 一日の終わり夕焼け窓四角 また一つ花火が上がる指先に すれ違う人なく逮夜蜜柑花 世界から雨が集まる夜のシネマ 鞄から蝶飛びたてば夏の中 黒南風やトランクで鳴るタンバリン 少年は獣の一部…
『銀河一族』小佐野彈(短歌研究社2021)より抜粋 どの嘘もやさしい声で語られてゆけばほころぶさくらのやうに ふくよかな頬にみやびをくすませて老いと気づかぬまま老いてゆく 冷笑があまねく街にひろがつて無声映画のやうな夕方 第一歌集『メタリック』から…
『久保田万太郎の俳句』成瀬櫻桃子(講談社文芸文庫2021) 春燈三代目主宰成瀬氏の評論を纏めた一冊。名著であり優れた万太郎俳句入門、俳人協会評論賞受賞とあるが…私には半分位しか内容を読み取ることが出来なかった。 万太郎の著作からの引用なのか、伝聞な…
『地球にステイ! 多国籍アンソロジー詩集』四元康祐編(株式会社クオン2020)より抜粋 蜜 養蜂家と美しくつややかな髪は死に ミツバチと櫛は薄暗い森となった もう十分、男の子は目覚まし時計をセットして この年老いた地球(ほし)に尋ねる:一日って何マイク…
『神様の住所』九螺ささら(朝日出版社2018)より抜粋 きよらかな思考を持ちし牛を食みゆっくり人を愛し始める 〈体積がこの世と等しいものが神〉夢の中の本のあとがき 厭離穢土欣求浄土という音がボサノヴァみたいに軽く聞こえて 雛雌雄分けしてるようきみの…
ハスキーな声でオーダーを繰り返す 彼女を包むボサノバ 厨房の喧騒 一人優雅に踊っている 美しい残像 パフェの試作は楽しいし 春のメニューならば尚更 わざと失敗して何度も試食するの バックヤードで交わすたわいもない会話 スマホの操作を教わりながら の…
春立つと雲居の小鳥呼びに来る 寒明けを唄い始めるジャムに蓋 薄氷や漂着船を抱き留める 天辺の禽獣ほうと霞立つ 交差する腕ごし梅の蕚かな 鳥帰る額の真中狙われて 花桃や踊る形に生まれくる 森の扉薄く開かれ蝶の昼 春深し案内頁にある折り目 紅躑躅押し分…
春祭鬼面の演者滑り入る 冴返る紅殻闇に香たてて 踏みしだくオオイヌフグリの細胞 春あかつき幼生のままに漂う 水温む人魚は涙ごと溶けて 古本の栞美し花の影 抜けられなくともかまわない 花蕊降る 太陽の塔へ降る宇宙塵朧月 復活祭半裸のトルソ窓に寄り イ…
淡雪や一歩押し広げる円周 春は手を挙げてから来る空まがう 水底に廃る王宮花あしび 散る花もすがり黄衣の僧二人 春重し初手の石置く山の音 山裾に声色隠す春障子 ハトロンの絵本をめくり燕来る ダンディライオン首長くして我を噛む 緋の椅子は妖しく沈む春…
踏み出せば蹠一つ分の春 春の馬場ひかれて続くお静かに 切り株やあるべき空に鳥の影 春。青空に投げる箱は空っぽ モネの庭長い長い長いお話 紫木蓮誘い込まれて行き止まり 足重き街にブルース紫木蓮 盤上に駒音続く花の雨 一つ星耕し終えた地の匂い 花明り自…
『ひとり』 瀬戸内寂聴(2017深夜叢書社)より抜粋 菜の花や神の渡りし海昏く 星ほどの小さき椿に囁かれ 雛の間に集ひし人のみな逝ける 話題となった文豪の俳句集である。当然ながら後半のエッセイの方が上手い。語彙が豊富で技術を熟知しているだけに、簡単に…
『第一句集 定本 誕生』 鷹羽狩行(牧羊社/花神コレクション1994)より抜粋 書肆を出て銀漢ひくき方へ帰る 極寒や透きとほるまで斧を研ぐ 沖に出し流木に雪殺到す 菫かたまりて未完の詩のごとし 稲妻の夜となる砥石濡れしまま 落椿われならば急流へ落つ みちの…
『主よ 一羽の鳩のために──須賀敦子詩集』 須賀敦子(2018河出書房新社)より (夜毎くらがりに わたしはすはって) 夜毎くらがりに わたしはすはって 故郷を追はれた罪ないおまへの涙を 両の手に汲み ひとりのみほしては 苦い野のはての小花をつみあつめる。 …
『星糞』 谷口智行(2019邑書林)より抜粋 御燈祭闇夜が胞衣を脱ぐごとし 葛の崖覗けり身投ぐべくもなく 踊らむか焼烏賊にほふ浜に出て 遠雷や野の踏切に海の砂 まなうらのあめつちに春来たりけり 乳透けて見ゆ呪師の夏衣 健次忌の辻々に立つ青をんな 川施餓…
echire☆echire project 10年計画【operation】 2014年、買ったばかりのスマホを有効活用しよう、そうだ!俳句を作ってお〜いお茶に応募しよう!と、当時サービスを始めたばかりのnoteに、片っ端から書きとめていくことにした。 その時、適当に決めたタイトル…