ハスキーな声でオーダーを繰り返す
彼女を包むボサノバ
厨房の喧騒
一人優雅に踊っている
美しい残像
パフェの試作は楽しいし
春のメニューならば尚更
わざと失敗して何度も試食するの
バックヤードで交わすたわいもない会話
スマホの操作を教わりながら
のど飴の味比べ
理不尽な事故の知らせは唐突で、書かれたメモの文字を理解できない。ざわつく胸を宥めながら、まだ泣いては駄目と繰り返す。命に別状は無いという言葉の無力さ…ただもどかしく…私達には祈ることしか許されなかった。
そして未だ彼女は深い眠りの中
願わくば
どうか楽しい夢をみていますように
長い髪を風になびかせながら海辺を歩く
美味い酒を片手に振る舞う料理
タンバリンならおまかせ
息子達とその彼女 老猫
貴女と話したいことが沢山あるのに
取り残された私達には成す術がない
地下街ですれ違う幽霊
橋の上から飛び降り続ける人の影
遠く国境の街で泣く子供
春2022
鳥雲に小鬼と棲まう戻橋