菜の花や神の渡りし海昏く
星ほどの小さき椿に囁かれ
雛の間に集ひし人のみな逝ける
話題となった文豪の俳句集である。当然ながら後半のエッセイの方が上手い。語彙が豊富で技術を熟知しているだけに、簡単に一句できてしまうのか、全般的に予定調和の感は否めない。ご本人も解った上で楽しんでいる様子なので、こう書いても格段失礼には当たるまい。
子を捨てしわれに母の日喪のごとく
老いし身の白くほのかに柚子湯かな
このあたりは鈴木真砂女を彷彿とさせる。
寂聴さんの目指したのはこういう私小説風の俳句なのだろう。どの句もその裏に短編小説が潜んでいる様な物語性がある。体力があればもっと書けたのに…という想いが込められているようにも思う。
うちの母親がお聖さん(田辺聖子)と寂聴さんのファンで、どっちも捨てがたいけど後世に残るのはお聖さんかなぁ、と言っていた。何のこっちゃと聞き流していたが…萩尾望都と竹宮惠子みたいなライバルよ!と聞いて俄然興味が湧いてきた。
お二人共鬼籍に入られ、数年内に評価が定まるだろう。母の目算は当たるのかどうか、密かな楽しみである。