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echire☆echire project 俳句の記録

枯菊の風に身じろく都市封鎖

『ひとり』 瀬戸内寂聴(2017深夜叢書社)より抜粋

 

 

 

菜の花や神の渡りし海昏く

星ほどの小さき椿に囁かれ

雛の間に集ひし人のみな逝ける

 

 

 

話題となった文豪の俳句集である。当然ながら後半のエッセイの方が上手い。語彙が豊富で技術を熟知しているだけに、簡単に一句できてしまうのか、全般的に予定調和の感は否めない。ご本人も解った上で楽しんでいる様子なので、こう書いても格段失礼には当たるまい。

 

 

 

子を捨てしわれに母の日喪のごとく

老いし身の白くほのかに柚子湯かな

 

 

 

このあたりは鈴木真砂女を彷彿とさせる。

寂聴さんの目指したのはこういう私小説風の俳句なのだろう。どの句もその裏に短編小説が潜んでいる様な物語性がある。体力があればもっと書けたのに…という想いが込められているようにも思う。

 

 

 

うちの母親がお聖さん(田辺聖子)と寂聴さんのファンで、どっちも捨てがたいけど後世に残るのはお聖さんかなぁ、と言っていた。何のこっちゃと聞き流していたが…萩尾望都竹宮惠子みたいなライバルよ!と聞いて俄然興味が湧いてきた。

お二人共鬼籍に入られ、数年内に評価が定まるだろう。母の目算は当たるのかどうか、密かな楽しみである。