『地球にステイ! 多国籍アンソロジー詩集』四元康祐編(株式会社クオン2020)より抜粋
蜜
養蜂家と美しくつややかな髪は死に
ミツバチと櫛は薄暗い森となった
もう十分、男の子は目覚まし時計をセットして
この年老いた地球(ほし)に尋ねる:一日って何マイクロ秒に換算できるんだろう?
男の子もやがて養蜂家になるのだろうか?
たくさんの人たちの両親が死んで、
たくさんの人たちの子供が死んだ
霊柩車は透明で深い水の中を進み、
魚たちはそれを追いかけながら
叫び声を上げていた
死ぬはずなのにいまだ死んでない者たちだけが
その声を聞かずにいた
男の子は髪の毛のない女の子を慕っていて、
その年
その年から髪を剃られた
女の子が流せなくなった涙は
地球で唯一の蜜となった
お母さん
廖偉棠(リャオ・ウェイタン)/倉本知明訳
コロナ禍をテーマにした世界各国の詩人の作品集。緊急出版、多重翻訳という枷を負いながらも、読み応えのある面白い本となっている。もっと良いタイトルあったんじゃない?…と首を傾げるが、現代詩はそこまで詳しくないので掘り下げるのは止めておく。
他に五編、お薦めを選んでみた。多分誰のチョイスとも被らない、妙な自信がある。アンソロジーはこういう楽しみ方ができるのが楽しいよね。
きみがこの詩を書いている 覚和歌子
雨降る夜の憂鬱 宗子江(クリス・ソン)
寄物陳思歌三首 佐藤弓生
巣の上に冠を被せる マズーラ
穴 八上桐子
寝癖のままその場足踏み花の昼