『水原紫苑の世界』齋藤愼爾編集統括(深夜叢書社2021)より抜粋
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『びあんか』
菜の花の黄溢れたりゆふぐれの素焼の壺に処女のからだに
殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉 ゆけ
宥されてわれは生みたし 硝子・貝・時計のやうに響きあふ子ら
『うたうら』
鐘鳴らむ一瞬まへの真空にきりんは美しき首さし入れつ
おそろしき夢のひとつに白萩の直立 もはやあなたが見えぬ
『客人』
こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし
『くわんおん』
「くわんおんはわれのごとくにうるはし」と夢に告げ来し百済びとあはれ
『世阿弥の墓』
〈白鳥、花をふふむ〉一瞬にして白鳥はもつとも蛇に近づくならめ
『えぴすとれー』
ぬばたまの夜の鴉はいづこまでおのれか知らず心あふるる
『如何なる花束にも無き花を』
ふたたびは舞はざらむ手をかざしつつ蜻蛉に従くわたくしは他者
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水原紫苑さんのファンブック。今回は巻末の自選五百首からお気に入りを引いてみた。
歌の多くは、一物仕立て=内容的には一つの事を一首に仕立てているので、表現は難解だがなんとなく理解は出来る。深く潜行してゆく感覚が残る。
私はどうしても硬質な歌を選んでしまうのだが、水原氏の場合、柔らかいトロミのある歌の方が本領であろう。
団龍のひそり訪う秋彼岸