『渡辺のわたし 新装版』斉藤斎藤(港の人2016)より抜粋
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君の落としたハンカチを君に手渡してぼくはもとの背景にもどった
いつまでも手を振りつづけてたいつまでもいつまでも手は見えつづけてた
蛇口をひねりお湯になるまで見えている──そう、ただ一人だけの人の顔が
遺族らは見てなくもない中庭に鳥がなにかを告げていること
蛍光灯がもったいつけて消えて点く きょうも誰かの喪が明けてゆく
くらやみに頬杖のかたちをしてる体の父がおそろしくなる
わたしの視野になにかが欠けていると思いそれは眼球と金魚を買った
部屋中の空気が耳にやってくる音にテレビをつけたけど消す
扉を開けてずんずん進む暗闇に横たわるきみであるはずの影
ひるねからわたしだけめざめてみると右に昼寝をしてるわたくし
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
オンデマンド発刊された後の紙本。同年に第二歌集『人の道、死ぬと町』も刊行された。
君だの僕だの頻出する歌集は感想を述べる前にそっと閉じてしまうのだが、この人の場合、ふわふわした日常詠は少な目、適度にクールな所が気に入っている。
間断なく笑いつづける冬花火