『荻窪メリーゴーランド』木下龍也・鈴木晴香(太田出版2023)より抜粋
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君を撮るためのカメラがあたたまる太腿のうえ 海まで遠い
(ひらくたび) ふたりふざけて切り合った髪の先端から火の匂い
私だけ結末を知っている本のどこまで話してしまえばいいの
一年の夜空すべてを見届けて〈永遠〉で終わらせるしりとり
終わろうとしている夜を引き止めるための涙がこの世に落ちた
こぼれたら転がる果物が好きで真冬しずかにうつ伏せになる
消えないで赤く灯っているままの皆既月食、ちがう、両目だ
恋愛は羽で数えよ井の頭公園に百羽のスワンたち
上巻と下巻のあいだにもうひとつあるような気がしている海辺
走馬灯みたいなメリーゴーランド止まるのではなく消えてゆくだけ
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
webマガジン『OHTABOOKSSTAND】での連載を書籍化。
どの歌もオシャレでカッコいいのだが、今回は鈴木晴香さんの担当パートより選んでみた。
短歌ならではの余韻の残り方が美しく、初期の穂村弘作品を思い起こす。
連作として読むと、インディーズ映画のようなシナリオ、カット割、幻想と現実を行き来する複雑なプロット構成など、物語に奥行きが出てくる。ただ反面、綺麗事として消費される短歌ならではの宿命の様なものも感じる。