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echire☆echire project 俳句の記録

黄落

『作家と楽しむ古典』松浦寿輝/辻原登/長谷川櫂/小澤實/池澤夏樹(河出書房新社2019)より抜粋

 

 

 

 

 

 

『近現代俳句/さまざまな流れをこそ』小澤實著

 

 

 

☆始まりは正岡子規ではなく井月。田中裕明と攝津幸彦で閉じる。生者は除く。

 

たたずめる我と別れて秋の風 田中裕明

山桜見事な脇のさびしさよ 攝津幸彦

 

 

文人俳句はあるが文人短歌というジャンルはない。短歌を詠む際文人特別枠でなく歌人として扱われる→短歌は作者と作品が近い。

 

春寒や日闌けて美女の嗽ぐ 尾崎紅葉

炎天や切れても動く蜥蜴の尾 芥川龍之介

寒き日や川に落込む川の音 永井荷風

有る程の菊投げ入れよ棺の中 夏目漱石

ゆきふるといひしばかりの人しづか 室生犀星

 

 

☆反ホトトギス、『石楠』『万太郎系』→物を書くのではなく空間を書く。

 

ねむりても旅の花火の胸にひらく 大野林火

冬の灯のいきなりつきしあかるさよ 久保田万太郎

 

ゆく春やうつろの甕を草の上

川波や秋風吹けるひとところ 長谷川春草

 

 

ホトトギス→写生の究極

 

いま落ちし氷柱が海に透けてをり 橋本鷄二

 

 

☆新興俳句→すべてが反虚子、いつの間にか消えて虚子だけが生き残った。

 

頭の中で白い夏野となつてゐる

ちるさくら海あをければ海へちる 高屋窓秋

 

 

 

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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 」連続講義の書籍化シリーズ五冊目。

小澤氏のパートでは、俳人50名の選をいかに行ったかが語られている。

「女性俳句」に関しては、何故これ?という句が紹介されており、感覚の違いに愕然とした。敢えて玄人好みの句を紹介しているのか…大人の事情なのか…良く解らない。

 

 

 

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黄落や帰りが遅い狐の子

 

 

 

コスモス

『月と書く』池田澄子(朔出版2023)より抜粋

 

 

 

 

芒は光なのか揺れると光るのか

 

目も耳もさわればありて菊月夜

 

白百合や息を殺したあとの呼気

夕焼に突っこむまぼろしのやんま

目が覚めて眠いと思う百合と思う

 

鶏病めば急ぎ殺して人の春

春の霰あれはほんとは我が欠片

さよならと互いに蓬の匂いの手

 

郭公の方へ方へと路細む

音無しの背後おそろし瀧の前

夕涼の湖畔は人を走らせる

 

逢いたいと書いてはならぬ月と書く

 

女王蟻に月の匂いを知らせねば

逢いにゆく径なふさぎそ秋ざくら

湖は空に覆われ雁の竿

 

 

 

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池田澄子氏の第八句集。コロナ禍以降の重苦しい世相を反映しているが、直接言及している句は案外少ない。

 

表題作『逢いたいと書いてはならぬ月と書く』

は、とても好きな句。きちんと季語が入って、定型で、、、やっぱり澄子さんはすごいなと思う。

 

 

 

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コスモスのパレード 音は止まない

 

 

銀木犀

『快樂』水原紫苑(短歌研究社2022)より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

紫のきはまるところ藤ならむ欲望の房ながく垂れ嘔吐を誘ふ

雨の日は死にたくなきに紫の賜物の傘ささば煉獄

狼が犬となるまでひさかたの銀河にくらき壁見ゆるまで

何者と院に問はれてあけぼのとしづけく答ふ死の歌合

死にし友の賜びし陶器に顔ひとつ青もてゑがかれゐたる わ・た・く・し

紫陽花の頭をふりて人と逢ふ人たちまちに雷神となる

黒妙のたましひひとつ泛ばせてにんげんのごとく湯浴みせりけり

くちなはを庭に見たりしただひとたび女王のごときわれと思ひき

石を積むまた石を積む崩されて崩されて桔梗は星へ

テーブルに來たれる鴉、フェードルとみづから名乘り崩れゆきけり

 

 

 

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第57回超空賞と第21回前川佐美雄賞をダブル受賞した、水原紫苑氏の第十歌集。

『天国泥棒』と同じく短歌日記に近い構成で、一冊の中に様々な物語が詰め込まれている。

 

 

 

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銀木犀かたちあるもの引き継げず

 

 

小鳥来る

『俳句鑑賞 1200句を楽しむ』宮坂静生編著(平凡社2023)より抜粋

 

 

 

 

 

 

雪原の足跡どれも逃げてゆく  津川絵里子

水取りや氷の僧の沓の音  芭蕉

鶯の身をさかさまに初音かな  其角

蝶食ふべ二度童子となりにけり  柿本多映

陽炎のひとりを入れて縄電車  高岡修

 

五月来る座敷童子のやうに来る  柿本多映

五月病草の匂ひの手を洗ふ  村上鞆彦

薄闇に蹠拭きゐる夏越かな  桂信子

このバスは八月までに着きますか  久留島元

百物語唇なめる舌見えて  中西夕紀

 

天の川われを水より呼びださむ  河原枇杷

蜩や杖のまわりがくらくなる  関口比良男

牛生まる月光響くやうな夜に  鈴木牛後

龍膽が夜の小学校にあり  田中裕明

稲づまやかほのところが薄の穂  はせを

 

一茶の忌とんと出口の見あたらぬ  夏井いつき

猟犬の狂乱を待ち放しけり  中村和弘

柚子湯してほろびた国の夢をみて  谷さやん

人形よく人を遣ひぬ年つまる  高橋睦郎

白をもて一つ年とる浮鷗  森澄雄

 

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絵のなかの靴が揃えてある晩夏  あざ容子

夏至の日の繋がれてゐる赤ん坊  柿本多映

盆踊沖を一灯とほりけり  井上弘

極月の夜の風鈴責めさいなむ  渡邊白泉

よく眠る夢の枯野が青むまで  金子兜太

 

 

 

 

 

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日本農業新聞のコラムより1008句、NHK俳句巻頭名句鑑賞より200句の鑑賞、後半に季語に関するエッセイが掲載されている。

 

ここまで専門的な本の場合、拾い読みが前提になる。

①まずはどのような句が選ばれているのか、お気に入りに付箋を貼りながらざっと目を通す。

スマホの下書きに付箋を貼った句を書き写す。

③そこから更に厳選する。(10句、5句縛りが多い。)今回だとここまで正味2時間位。

 

ここからやっと鑑賞文を読み始めるのだが、スピード重視の為、内容が正確に読み取れているかは甚だ疑わしい。

 

④どんな切り口でブログを纏めるか考えながら、使えそうな箇所に付箋を貼っておく。

⑤週末にブログ作成。

 

まぁ趣味の範疇だし…というか、仕事の資料もよく似た読み方をしているので、これはもう習性と言えましょう。

 

 

 

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人道回廊繋がる異界小鳥来る

 

舞茸

吉増剛造詩集』吉増剛造(ハルキ文庫1999)より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 ロサンヘルス

 

(前略)

 

学校ニ、入ッテ行ッテ、教会ヲサガシタ。ワヲ作ッテ、花ヲサガシタ。

木箱ノ隅ノ、モモノ匂イ。

美シイ桃ガシッカリトケテ行ッタ。

 

木蔭、バス停、幾人もの人の影。

バスも来ると木蔭に消える。

誰だろう。

(ラファエルロ?)

 

 ブエナノーチェ。

 鐘ガナリハジメタ、風ガフイタ。

 黄金ノ町、ロスアン、ヘレスノ、

 クワトロ、セイス?

 

アマリオスダ

 

「牝牛がなく

 牡牛がなく

 

  牛がなく」

 

泣けよ

 

青森

ロサンヘルスだ

 

 

 

 

 

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吉増剛造の1964年から1998年までを俯瞰して、文庫版として読まれることを前提に編纂された一冊。(稲川方人編)

 

長篇が多く、難解な語句や比喩、尋常でないモチベーションの高さ等々…全く一般受けしない詩人である。現在も活動が続いている為、その評価は定まっていないが、代表作とされる作品の多くは初期に当て嵌まる。

 

抜粋した詩は1984年の『オシリス、石ノ神』から。初期の疾走感や閉塞感は影を顰めているが、詩人が到達した壮大な無辺の空間、一抹の不安を含んだ、静謐な詩の世界が広がっている。

 

 

 

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舞茸を裂く人類の糧として

 

十五夜

『愛の詩集』谷川俊太郎編(サンリオ1990/初版1981)より抜粋

 

 

 

 

一詩人の最後の歌 H・アンデルセン

 

私を高く運んで行け、お前、強い死よ

魂の大きな国へ。

私は神が私に命じた道を進んだ

額をまっすぐにあげて。

私が与えたすべては、神よ、あなたのもの

どれだけ私の富があるのか、私は知りませんでした。

私が費したものはほんのわずかです

私は枝の小鳥のように歌っただけです。

 

さようなら、あざやかに赤い一本一本のばらよ

さようなら、お前、いとしいもの!

 

ただ私を運んで行け、お前、強い死よ

たとえこの世にあるのが楽しいにせよ!

ありがとう神さま、あなたが与えた下さったもののために

ありがとう、これから来るもののために!

死よ、時間の海を越えて飛んで行け

さあ、永遠の夏の方へ。

 

(山室静訳)

 

 

 

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アンデルセンは、童話作家としてだけでなく詩人としても紹介されるが、その詩作品を目にする機会は滅多にない。

上掲は、別案件で谷川俊太郎を調べていた時に見つけた一編。

 

1981年版のあとがきに、『愛の詩集』は15年前に編んだ──とある。となると、谷川氏35歳当時のセレクション?

何故この詩が「愛」の言葉として括られるるのか謎だが、本人にも明確な理由は無さそうだ。

 

 

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十五夜の扉は開く 赤い赤い

 

秋彼岸

水原紫苑の世界』齋藤愼爾編集統括(深夜叢書社2021)より抜粋

 

 

 

 

 

 

 『びあんか』

菜の花の黄溢れたりゆふぐれの素焼の壺に処女のからだに

殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉 ゆけ

宥されてわれは生みたし 硝子・貝・時計のやうに響きあふ子ら

 

 『うたうら』

鐘鳴らむ一瞬まへの真空にきりんは美しき首さし入れつ

おそろしき夢のひとつに白萩の直立 もはやあなたが見えぬ

 

 『客人』

こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし

 

 『くわんおん』

「くわんおんはわれのごとくにうるはし」と夢に告げ来し百済びとあはれ

 

 『世阿弥の墓』

〈白鳥、花をふふむ〉一瞬にして白鳥はもつとも蛇に近づくならめ

 

 『えぴすとれー』

ぬばたまの夜の鴉はいづこまでおのれか知らず心あふるる

 

 『如何なる花束にも無き花を』

 ふたたびは舞はざらむ手をかざしつつ蜻蛉に従くわたくしは他者

 

 

 

 

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水原紫苑さんのファンブック。今回は巻末の自選五百首からお気に入りを引いてみた。

 

歌の多くは、一物仕立て=内容的には一つの事を一首に仕立てているので、表現は難解だがなんとなく理解は出来る。深く潜行してゆく感覚が残る。

私はどうしても硬質な歌を選んでしまうのだが、水原氏の場合、柔らかいトロミのある歌の方が本領であろう。

 

 

 

 

 

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団龍のひそり訪う秋彼岸