『うれしい近況』岡野大嗣(太田出版2023)より抜粋
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めのまえにあなたの口はひとつなのに頭のまんなかで声がする
空気いる?自転車置き場に猫がいてタイヤがふくらむまで見てくれる
春といえば鳴らしていない自転車のベルがほのかに鳴ってくる道
花と花に眠る犬の絵 ふんだんな余白が棺だと思わせる
レイトショー帰りのホーム 伝説になるくらいならさらばえたいね
切に 歩道橋からビデオ通話して映画みたいな夜 祈ってる
漫画なら見開きの夜 網戸から吹き出しで来るベランダの声
裾がいい服を着ていく今日たぶん俯きがちなわたしのために
後半にかけてかなしくなる予感 ポップコーンの底をまさぐる
銭湯の〈ゆ〉がまふたつに割れていくからだを置いてさめていく夢
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
岡野大嗣さんの第4歌集、相変わらずのオシャレさん、読ませる工夫が素晴らしい。
こういう作風だと無限に書けると思わせてくれるが、実際真似をしてみると直ぐに行き詰まる。言葉の賞味期限を意識し始める。