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echire☆echire project 俳句の記録

白木槿

『天國泥棒 短歌日記2022』水原紫苑(ふらんす堂2023)より抜粋

 

 

 

 

わたくしは鳥かも知れず恐龍の重きからだを感ずるあした

 

きさらぎはものうごく月、花の木がこころたしかむるかそけきうごき

 

フリージアは魚の泪に活くべしとこゑのみ立てり壺の中より

 

硝子戸の向かふは庭と信ずるもあやふかるべし胎かも知れず

 

無人なるふらここひとつおのづからゆれてとまらずたれ來たるらむ

 

公園に遊具さまざま在ることのひみつここより天國にゆく

 

揚羽蝶追ふ群れのなか捕蟲網ひときは高くかかぐる死者よ

 

鐡砲百合たれを撃つらむ罪人とよばれしごとくふりかえり見つ

 

重き重きメトロのドアの把手つかみ永遠をつかむ泪あふるる

 

冬紅葉鈍き褐色わが庭のたましひいまだ人閒ならむ

 

 

 

 

 

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ふらんす堂ホームページでの連載を纏めた一冊。連日更新にこだわった事により、全てが完璧という訳ではない。フランス滞在編からは、お気に入りをとることが出来なかった。

 

「天国泥棒」という言葉の意味も今回初めて知った。可愛らしい装丁でオシャレなタイトルと思っていたけれど、実は怖い、ジワジワと効いてくる遅延型の毒を含んでいる。

 

 

 

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手の中の妄骸羽衣白木槿

 

稲妻

「鈴木花蓑の百句』伊藤敬子(ふらんす堂2020)より抜粋

 

 

 

 

大いなる春日の翼垂れてあり

 

コスモスの影ばかり見え月明し

白菊に遊べる月の魍魎(かげぼふし)

紫陽花のあさぎのまゝの月夜かな

 

翅立てゝ鷗ののりし春の浪

 

 

 

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鈴木花蓑はホトトギス派の俳人。4Sの登場前、杉田久女などと同時期に活躍したが、現在ではその名前を挙げる者は少ない。

 

山本健吉の『定本現代俳句』では、「客観写生風の低俗句の羅列」とけちょんけちょんに貶されつつも、秀句として下記が取り上げられている。

 

雪の嶺の霞に消えて光りけり

薔薇色の暈して日あり浮氷

紫陽花の浅黄のまゝの月夜かな

晴天やコスモスの影撒きちらし

雨上る地明りさして秋の暮

 

伊藤敬子氏の評価はそれに比べるとかなり穏健好意的だが、山本氏の影響を強く受けており、ほぼそのまま引用している部分も多い。俳句界での共通認識という事なのであろう。

 

 

 

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稲妻やダビデの星を容れる籠

 

 

星月夜

『孤独の俳句「山頭火と放哉」名句110選』金子兜太又吉直樹(小学館新書2022)より抜粋

 

 

 

 

 

人間の考え方というのは「存在」そのものから見ていかないとほんとうのところ、正確には掴めないと考えたのです。「社会」対「思想」は危ない。「存在」対「思想」ならば本物であると、私はそういう考え方に変化していったのです。

(2012.11.13 金子兜太インタビューより抜粋)

 

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とかげの美しい色がある廃園

追っかけて追ひ付いた風の中

霜とけ鳥光る

 

放哉

 

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山頭火と放哉のムック本の改訂版。

放哉の選句と句評は又吉氏が担当した書き下ろしで、今回の目玉はこの部分であろう。

 

万遍なく代表句を選んでいるという時点で、さほど期待はしてなかったのだが、所々になんじゃこれ…と笑えるエピソードが挟み込まれていて、独自性を出そうと頑張った痕跡が残っていた。自由律俳句を読む楽しみを伝える良書だと思う。

 

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ポプコーンと冒険ですか星月夜

精霊蜻蛉

『俳句ミーツ短歌』堀田季何(笠間書院2023)より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

八月を静かな巨船とも思ふ

みちのくの中にみつしり露の玉

人体の淋しくなれば望の夜

胃の底に沈黙の水十三夜

いきいきと餅は焼かれて父の国

 

(俳句生成プログラム 楽園VOL.01試作)

 

 

 

 

 

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先日地上波でアニメ映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』が放映されていた。俳句がモチーフという事で、楽しみにしていたのだが…何とも言えない作品だった。*私見ですよ。

 

地方創生アニメに乗っかって、「俳句」を盛り上げたかったのだろう。挿入される俳句はどれもレベルが高く、何処にも瑕疵は無いのだが、かえってそれが興を削ぐ。「登場人物に合わせて、プロの作家が監修する俳句」という代物にどうにも気持ち悪さを感じてしまうのだ。

 

結局、俳句をやっている仲間内にはウケるだろうが、この映画を観て「俳句」を始めようと思う人なんているの?もう少し違うやり方があったのではないの?と、最後まで違和感が残った次第である。

 

 

 

 

 

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さて本題。

私の場合、俳句や短歌の入門書が読みたかった訳ではなく、「堀田季何」という人に非常に興味を持っていて、言うなれば単なる追っかけファンの一人である。

上掲は『第18章 AIと第二芸術論』からの引用。最前線の作家さん達は、こういう議論を重ねているのだなと、大変勉強になった。AIを使いこなす世代が、詩歌の世界にも生まれつつある。

 

 

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あなた誰?精霊蜻蛉の閉じた町

 

『週末のアルペジオ三角みづ紀(春陽堂書店2023)より抜粋

 

 

 

 

     創造のはじまり

 

うけとめる花弁

こんなにも小さな舟

 

乗りこんだら

挨拶を交わす

 

家々の灯りが

そこはかとなく

しかし確実に

揺れつづけて

 

もはや

ふたりではなく

ひとり

ぼくは きみが

結びあわせたものを

引き離してはいけない。

 

手をつないで

つぎの地に向かう

やみくもに先を見て

 

ようやく

地平線が瞬きをしたころ

ぼくたちの腕が櫂になる

 

 

 

 

 

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『Web新小説』2020年5月〜2022年4月に発表された作品の書籍化。後半に谷川俊太郎氏との対談が収録されている。コロナによる緊急事態が「詩」の創作にどんな影響を与えたのか、貴重な記録の一つとなった。

 

私がお気に入りに選んだのは、最後から二番目に掲載された昨年四月の作品。白昼夢のような淡い世界が広がり、最後に微かな希望が生まれる。奏でる様に言葉が繋がっていくこの緩さが心地よい。

 

「言葉」によって対立したり傷付けあったりするWeb上の現実を、一瞬忘れさせてくれる。詩を書いたり読んだりする意味は、そういう些細なことで良いのだと思う。

 

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若くなく新しくもなく桃を剥く

 

 

 

盂蘭盆会

『厨に暮らす』宇多喜代子(NHK出版2022)より抜粋

 

 

 

出刃の背を叩く拳や鰹切る 松本たかし

襟足の奥の瞑さよ白魚飯 寺井谷子

三日月に地はおぼろ也麦の花 芭蕉

縞目濃き冬至南瓜に刃を入れる 木内彰志

水替へてひと日蜆を飼ふごとし 大石悦子

 

 

 

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前半は小林聡美さんとの「昭和のくらし博物館」での対談記事、後半が主に食べ物に関する季語の紹介エッセイ。

 

所々に上記のような例句が組み込まれているのだが、特に解説がなされる訳でもなく、宇多氏がどういう基準で選んだのか、はっきりとは解らない。

 

食べ物の季語は、挨拶句として使われる事が多く、割とありきたりな作品になりがち、出尽くした感がある。

昨今の社会事情で家事分担の増えた男性陣から、今までとは違った視点の「台所俳句」が生まれてくるのを期待したい。

 

 

 

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菱灯篭浮きつ沈みつ盂蘭盆

 

 

猿滑

『谷さやん句集』谷さやん(朔出版2022)より抜粋

 

 

 

 

 

 

蟬時雨平行棒の相寄らず

藪よりアケビ友だちはまだ藪の中

七月の港に椅子が残ってる

椿咲く家なら海に出て不在

首謀者はこの捩花か透きとおる

 

 

 

昼顔やひさしくわが血みておらず

いちどきり雪をみし眼の雛しまう

貼り紙ごと電信柱消えて秋

雪がくるぞろっとページ外れたる

金魚らの中に釦がおちてゆく

 

 

 

 

 

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谷さやん氏の第二句集。やはり「船団」ぽいな〜と面白く読んだ。

主宰の坪内氏よりは叙情的で生真面目な印象。一句の中にゆったりとした時間が流れているようにも感じる。

 

 

 

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葬列の朝散り敷く猿滑