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echire☆echire project 俳句の記録

火焔茸

『左川ちか全集』島田龍編(書肆侃侃房2022)より抜粋②

 

 

 

 

 

 眠つてゐる

 

髪の毛をほぐすところの風が茂みの中を駈け降りる時焔となる。

彼女は不似合な金の環をもつてくる。

まはしながらまはしながら空中に放擲する。

凡ての物質的な障碍、人は植物らがさうであるやうにそれを全身で把握し征服し跳ねあがることを欲した。

併し寺院では鐘がならない。

なぜならば彼らは青い血脈をむきだしてゐた、脊部は夜であつたから。

私はちよつとの間空の奥で庭園の枯れるのを見た。

葉からはなれる樹木、思い出がすてられる如く。あの茂みはすでにない。

日は長く、朽ちてゆく生命たちが真紅に凹地を埋める。

それから秋が足元でたちあがる。

 

 

 

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この詩をよんでいる時に、金属フレームを棒で回しながら走ってくる少年のイメージがふと浮かんできた。子供の頃そんな遊びをした記憶は無いのだけれど…昔読んだ詩だろうか?童話だろうか?宮沢賢治ぽい気もする…

検索してみると瞬時に小川未明の「金の輪」と判明。美しく悲しい不思議な夢のお話。

 

この当時21歳のちかの「金の環」が何なのかは不明だが、イヤリングだったり指輪だったり、人によって解釈は違ってよいのだと思う。そもそもこの詩自体が何を語っているのか、本人以外本当の所は解らない。一見静かで穏やかな語り口であるが、底には怒りや焦燥感のようなものが内包されている。ざわざわと心が騒ぐのである。

 

 

 

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たまさかに墓標となりぬ火焔茸