『左川ちか全集』島田龍編(書肆侃侃房2022)より抜粋
緑
朝のバルコンから 波のやうにおしよせ
そこらぢゆうあふれてしまふ
私は山のみちで溺れさうになり
息がつまつて いく度もまへのめりになるのを支へる
視力のなかの街は夢がまはるやうに開いたり閉ぢたりする
それらをめぐつて彼らはおそろしい勢で崩れかかる
私は人に捨てられた
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左川ちかは1911年北海道生まれ。約90篇の詩の他、翻訳詩文や散文を残している。24歳で夭折、詩集が入手困難なことから長らく幻の詩人とされていた。
私にとっての左川ちかとの出会いは、上掲の『緑』である。唐突にふっと置かれた最後のセンテンス、わわわっ〜と一瞬で虜になってしまった。詩に「酔う」という感覚は、そうそう味わえるものではない。
魔女として名高い歌人の葛原妙子は1907年生まれなので、同時代を生きていたことになる。彼女達は現代とシンクロする感覚を何故持ち得たのだろう?特異な世代?突然変異?…大変興味深いところである。
怪談の語り始めの忘草