『さよならは仮のことば』谷川俊太郎(新潮文庫2021)より抜粋
黒板 (あたしとあなた/2015)
(あなた)に
あたしを代入すれば
この式は
解けるのだろうか
黒板の
前で
立ちすくんでいると
みんな
帰ってしまった
こんなことは
何でもない
もっと
差し迫ったことが
あるのに
思い出せない
あなたが
戻って来たので
あたしは
涙ぐんだ
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『二十億光年の孤独』から『ベージュ』までの主な詩集から編集部が独自に編んだ詩選集。谷川俊太郎の場合、どの詩も出だしが良い。
小津夜景氏が解説の中で、良寛の漢詩との共通点をあげている。夜景さんの翻訳も素晴らしいので併せて引用しておこう。
†
孰謂我詩詩
我詩非是詩
知我詩非詩
始可与言詩
‡
僕の詩を詩だというのは誰か
僕の詩、それは詩ではないのだ
僕の詩が詩でないと分かる人こそが
はじめて僕と詩を語ることができる
祇園会や人形振りの目が開く