青蜜柑唄の中ゆく貨物船
秋の潮無数に開くクラゲの眼
外は月夜らしい山椒魚黙す
木が走るかたかたかたかた良夜かな
狐花のりうつられていくけはい
白杖のしだいに細く十三夜
否と言う夢の覚め際秋彼岸
蹠は十字に痛む薄紅葉
指に垂れる針の尖端万聖節
崩れ落つ煉瓦露けしポーの村
風の名前 (辻征夫)
窓の外に
風がいる
窓辺に行くと
風のやつ
頬にふれる
(お部屋の中を
通っていい?)
(いいよ)
風が吹いて行く
手をさしのべているのは
風の肉体にさわっているんだ
微風のマリー
隙間風のジューン
ミセス秋風
(マタサブロウは
どうしてる?)
(知らないわ)
吹きさらしの
暮らしである