『竹林凊興』北原白秋(現代俳句集成別巻1文人俳句集 河出書房新社1983/靖文社1947)より抜粋
聴けよ妻ふるもののあり
たまさかに浪の音して夜の雪なり
震後
日は閑に震後の芙蓉なほ紅し
(家大破して住むに能わず)
紅い芙蓉をひとまはりして来る子です
雁来紅あかい角から時雨れけり
(家壊れて後架なし。眺めを選びては草原にかがむもおもしろく)
目について秋の御形のちひさきよ
春の蚊
日向ばかりを飛ぶ蝶萩の芽に添って
蚕豆の花だよ紫の眼がある
冬、冬、枯れたあぢさゐのみ光つて
からすみ色の雲みてのまう
山茶花の葉のへり光るナ
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
弟子の木俣修氏による没後編纂、概ね全部にあたる三百余句が収録されている。白秋全集(岩波書店1988)とは微妙に表記が違っていたりするが、正誤確認の術が無いのでそのままとした。
白秋が俳句に取り組んだ時期は短く、発表する気などさらさらなかったらしい。確かに俳句なのか短詩なのか、はたまた単なるメモ書きなのか判断に迷う句も多い。
本来の詩業と共通するのは風景の明るさや視線の優しさ、そして音感の良さだろうか。こうした美しい句を成しながら、その評価に執着する事なく捨て去ってしまう、巨人白秋ならではの凄味を感じるエピソードである。
雁来紅一つ残らず判を押せ