『新装版 春のお辞儀』 長嶋有(書肆侃侃房2019)より抜粋
ポメラニアンすごい不倫の話きく
昼顔や足裏みせて女寝る
短夜の遠くで発光するウラン
夜のメトロノーム恐ろし九月尽
控えめな春のお辞儀を拝見す
うつぶせで開くノートの先に海
夏の月万歳すれば体浮く
足跡の一つ一つや海渡る
夏の宵自分の国を指差せり
名月や寝転んだのはあの辺り
なんと言ってもポメラニアン!私の中では長嶋氏の代表句はこれである。
これから俳句を始める初心者にお薦めするかと問われると若干躊躇してしまうが、十冊目辺りにはランクインするかもしれない。笑いながら最後まで一気に読める、そんな句集は案外少ないのだ。
池田澄子さんの解説に、「日常語で、周囲や自分自身の行為を大真面目に描くと、こんなに可笑しいのだ。可笑しくてやがて哀しい、人間の行為である。」とある。
やがて哀しい…というのがミソで、飄々とした作風は久保田万太郎にも近い、そんな匂いがしている。
一句毎の完成度には疑問が残るし、最先端とは言い難いが、進むべき方向の多様性を示してくれている。この本の意義はそこにあると思う。