『こうちゃん』須賀敦子/酒井駒子(河出書房新社2004)より抜粋
あなたは こうちゃんに あったことが ありますか。
こうちゃんって どこの子かって。そんなこと だれひとりとして しりません。
ただ こうちゃんは ある夏のあさ、しっとりと 霧にぬれた草のうえを、ふとい鉄のくさりをひきずって 西から東へ あるいて 行くのです。鉄のくさりのおもみで こうちゃんのうしろには、たおれた草が 一直線に つづいてゆきます。どこまでも、どこまでも。
(後略)
こうして始まる『こうちゃん』の不思議な物語。1960年に『どんぐりのたわごと』という同人誌に発表された、須賀敦子さん初期の名作散文詩である。
須賀さんは1998年に亡くなっているので、この本は没後発刊されたことになる。どういう経緯で酒井駒子さんが挿絵を手掛けたのか、詳しいことはわからないが、このコラボレーションを手掛けた人のセンスが凄い!天才!
承前、
「鉄のくさり」は何を意味するのだろう。この不穏なフレーズが掴みとなって、読み手は一気に引き込まれていく。詩に答えは無いと解っているのだけれど…
少し痩せた人と連れ立ち青葉闇