echireeeee

echire☆echire project 俳句の記録

こだまして車輪は軋む雪催

子供の頃、雪というものを見ることがほとんどなかった。粉雪がチラチラ舞うだけで大騒ぎ、年に一度くらい薄っすら積もって、雪だるまや雪うさぎが作れた。うさぎの目にするからお社の奥の南天の実をちょうだい、と親におねだりしたものだ。

 

そんな温暖な土地柄だったのに、何故だか大学入学試験の当日に限って、狙いすましたような大雪になった。雪国の人なら鼻で笑う5センチ程の積雪なのだが、生まれて初めての「大雪」が入試に重なるという、なんという不運。

 

一面の雪景色(5センチだけど)の中、私はいつもの通学と同じ様に自転車で出発してしまった。滑らない滑らないと念じながら、100メートル程頑張って、大通りに達した辺りでギブアップ。残り2キロ、自転車を押しながら半ベソで歩いていった。なんてことはない、家から試験会場まで2キロ強。歩こうと思えば歩ける距離だったし、時間の余裕もあったのに、なんで自転車で行こうとしたのか…そして家族も誰も止めなかったという…余りの非日常的な出来事に頭がパンパン、バグっていたに違いない。

 

会場前で担任の先生やクラスメイトと合流し、なんで雪やねーん!と思いっきり笑い合った。

 

ン十年前のことなのに、あの日着ていたウインドブレーカーの色やぐずぐずに濡れた靴の感触まで思い出せる。おかっぱ頭に雪を積らせ、まん丸に着膨れ、必死に自転車を押す幼い私が、あの日世界の中心にいた。

 

 

 

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冬薔薇紅く咲かんと黒みもつ

冬薔薇日の金色を分ちくるゝ

細見綾子