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echire☆echire project 俳句の記録

片隅に闇が生まれる雛飾

阪神大震災の後、芦屋の邸宅で古いお雛様を見せて頂いたことがある。気品のあるお顔立ち、見るからに古風なお衣装、少々傷がついたので修繕に出すというお話だった。成る程本当のお金持ちとはこういう品を好まれるのかと大変勉強になった。

 

我家のお雛様は、初孫の長姉の為に大阪から取り寄せたという御殿飾りの大きな物で、中学生の頃迄は毎年飾っていた。組み立てると幅一間を超え、座敷はしばらく人形専用となる。ニクイロさんと呼ぶ大きな市松人形も何体かあり、母や叔母に手縫いの衣装を拵えて貰っていた。御殿もお人形も子供達に容赦なく扱われ傷だらけになっていたが、修理に出すなどという発想は家族の誰一人持っていなかった。生活レベルの差はこういう所に現れると思った次第である。

 

お雛様の持ち主である姉は、三歳の誕生日を迎える前に亡くなっている。生まれつき心臓が弱く、お人形さんの様に色白で綺麗な子だったという。その後生まれた次姉も私(参女)も、お雛様を譲り受けることはできなかった。不吉な品ということで、お雛様は家に憑く物になってしまったのである。

 

 

 

 

 

雛壇のうしろの闇を覗きけり 神生彩史