承前
伯爵、お帰りなさい。体調はいかがですか?
左手を拝借。明日まで経過観察期間となりますので、極力大人しくして下さいね。少しでも異変があれば医局へご連絡を。
ふむ、なかなか美しいものだね、春という季節は。私も駐在員に立候補しようかしら。
だめだめ、伯爵には表舞台で働いてもらわないと。それにグランマはまだまだ長生きしそうですからね。当分空きはでませんよ。
確かに…少年を任せるに、グランマ以上に信頼できる人はいない。実に優しく賢い子に育っているよ。幼いながら信心深いのは彼女の影響だろうね。
我々もモニターを観ていて驚きました。神と言う言葉があんな子供からでるとは。他のクローンには見られない現象ですし、委員会の検証項目に加えましょうか。
そうしてくれ。第三世代ともなると予想外の分化を遂げる。少年が本当に王位継承者たりうるのか、社会学者の意見も聞きたい。どうせ僻地でフィールドワークだろう。捕まり次第繋いでくれたまえ。
仰せの通りに。
廃墟をのぞきこむ少年を見つけた時、我々が待ち望んでいたのはこの子に違いないと思った。直感だが、直感だからこそ正しいとも言える。
現在王位に着いているのは第二世代、13体目のクローン。賢王でよい治世だったが残された余命はあと僅か。各地で隠し育てられている第三世代の正確な人数は極秘である。
モニターには学習ポッドの中で丸まって眠る少年が映し出されていた。優しいグランマと仔犬達に囲まれて、おとぎの森ですくすくと育つ幼な子。彼が自分の生い立ちを知るのはいつだろう。或いはもう幾分かは察しているのかもしれない…
明日君はグランマと苺のジャムを作るのだよ。
ゆっくりおやすみ。
そして私は次の視察地へと向かう。
残酷な神の化身として。
https://note.com/marukos55/n/n7be072e32fee