echireeeee

echire☆echire project 俳句の記録

鞦韆や月夜にすはり溝を引く

仲良くしている営業さんが、六月から産休に入りますと挨拶に来られた。在宅勤務が一年も続くと、いつの間にかお母さん!という人も二人目である。来月から補充が一人入るという話だったが、顔を合わせるのは何時になることやら…

 

経営陣はコロナ終息後も基本在宅勤務を続ける方針らしく、ここ数日ヒアリングやアンケートが社内を飛び交っている。どっちが良いかなんて誰にも解らないし、多数決で決めることでもないのにね。

 

私自身は近所に住んでいるのでほぼ毎日出勤。柔軟な対応の一部としてお目溢しを頂いている。社員さんよりも、下請業者の私の方がいつでも会社に座っている、という摩訶不思議な現象が起きている。

 

ひょっとして全ては仮想空間の出来事かもしれぬわなぁ…

 

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屏風絵につづくこの世の朧かな 津川絵理子

 

 

山躑躅豪傑笑い疾り抜け

 

 

 

分け入つても分け入つても青い山 種田山頭火

 

 

 

金子兜太はこの句について

ヴァガボンドの感傷と憧れとでもいいたいような、角笛の哀調がある。心奥の難に疲れはてている人間の放浪句というよりは、多感な戸惑いがちな旅感の句として読める。」と書いている。

 

この句について、山頭火について調べてみた。前書に「大正十五年四月、解くすべもない惑ひを背負うて、行乞流転の旅に出た」とある。この年四月七日に尾崎放哉が亡くなっており、その三日後の四月十日、山頭火は旅にでている。この時山頭火四十五歳。すでに中年だが、気持ちとしてはまだ若々しく、山に溶け込むように歩く人間=放浪者の姿が見えてくる。

 

この句が人に好かれる理由は、表面の明るさの奥に虚無の翳りがつきまとう、その二重性にあるのではなかろうか。簡潔平明な表現で、美しい文体、季語季題からは完全に解き放たれた、一行の詩が生み出されている。

 

 

 

山頭火を調べていくと、鈴木しづ子や中城ふみ子(歌人)との共通点のようなものが浮かんでくる。自己投影の対象として偶像アイドル化され、周りにはあやかりたい、利用してやろうと近づいてくる有象無象の群。

優秀なプロデューサーの手腕によって名前が売れた俳人は数多いるが、その作品に圧倒的なオリジナリティが無ければいずれ忘れ去られていく。結局人は自分が読みたい物を読む。生きたいように生きるのだ。

 

 

 

街はづれは墓地となる波音 種田山頭火

 

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《参考文献》

山頭火句集 村上護編/ちくま文庫

放哉と山頭火 渡辺利夫/ちくま文庫

種田山頭火 漂泊の俳人 金子兜太/講談社現代新書

放浪行乞 山頭火百二十句 金子兜太/集英社文庫

 

初蝶来もっとも白きものを見る

承前

 

伯爵、お帰りなさい。体調はいかがですか?

左手を拝借。明日まで経過観察期間となりますので、極力大人しくして下さいね。少しでも異変があれば医局へご連絡を。

 

ふむ、なかなか美しいものだね、春という季節は。私も駐在員に立候補しようかしら。

 

だめだめ、伯爵には表舞台で働いてもらわないと。それにグランマはまだまだ長生きしそうですからね。当分空きはでませんよ。

 

確かに…少年を任せるに、グランマ以上に信頼できる人はいない。実に優しく賢い子に育っているよ。幼いながら信心深いのは彼女の影響だろうね。

 

我々もモニターを観ていて驚きました。神と言う言葉があんな子供からでるとは。他のクローンには見られない現象ですし、委員会の検証項目に加えましょうか。

 

そうしてくれ。第三世代ともなると予想外の分化を遂げる。少年が本当に王位継承者たりうるのか、社会学者の意見も聞きたい。どうせ僻地でフィールドワークだろう。捕まり次第繋いでくれたまえ。

 

仰せの通りに。

 

 

 

 

 

廃墟をのぞきこむ少年を見つけた時、我々が待ち望んでいたのはこの子に違いないと思った。直感だが、直感だからこそ正しいとも言える。

 

現在王位に着いているのは第二世代、13体目のクローン。賢王でよい治世だったが残された余命はあと僅か。各地で隠し育てられている第三世代の正確な人数は極秘である。

 

モニターには学習ポッドの中で丸まって眠る少年が映し出されていた。優しいグランマと仔犬達に囲まれて、おとぎの森ですくすくと育つ幼な子。彼が自分の生い立ちを知るのはいつだろう。或いはもう幾分かは察しているのかもしれない…

 

明日君はグランマと苺のジャムを作るのだよ。

ゆっくりおやすみ。

 

そして私は次の視察地へと向かう。

残酷な神の化身として。

 

 

 

 

https://note.com/marukos55/n/n7be072e32fee

 

 

 

迷い子の手にする童話花明り

お花見に行きたいが電車に乗って遠出するのも気が咎める。家の周りも桜だらけなのにまだ見足りないのかと笑われたが、日常からほんの少し離れてみたい訳よ。要するに休み明けに同僚に提供する話のネタが欲しいの…で、緑地公園まで歩くことにした。

 

緑地の森は平成30年の台風で大きな被害を受け、無残な状態が何年も続いていたが、やっと整備が追いついてきた。新しいふかふかの遊歩道を歩きながら、こんな公園を作る仕事は楽しいだろうな〜と羨ましく思う。

 

夕方とか早朝とか黙々と作業する職人さん達、その中に混じる自分を想像してみる。誰かがやる仕事だもの、私がやれないと決めつける事は無い。経験無し、体力無し、工具も扱えないけど、根気だけはありま〜す!そしてにっこり笑うと一発合格!の筈なんだけどな…マスクしてるからダメ?笑顔は通用しない?あらまぁ。

 

 

五六人穴掘つてゐる花の昼 中村苑子

 

底光る翡翠のピアス彼岸入り

ドラマの『エアガール』を流し見しながら、そう言えば高校の同級生が何人かスチュワーデス試験に受かってたなと思い出しました。懐かしいですよね、キャビンアテンダントではなくスチュワーデスと呼んでいた頃のお話。

 

公立高校だったので経済的な理由で進学しない生徒も多く、特に女子生徒の美し処は銀行や百貨店等に早々と内定を貰える、今考えるとのんびりとした良い時代でした。

 

広瀬すずちゃんの役柄は随分と庶民的で貧乏くさかったですが…よくよく考えると料亭の養女?まずまずセレブですよね?…でも働かなくても生きていける階級のお嬢様では無かった、という設定だったのかな?

 

社会には目には見えない階層があって、『エアガール』は下から見れば高嶺の花、上から見れば単なる接待役の職業婦人。「夢」や「やりがい」を強調しても、いや強調される度に、その裏にある不平等で残酷な現実を感じてしまうドラマでした。

 

 

 

 

 

くちづけの深さをおもひいづるとき雲雀よ雲雀そらを憎めよ

水原紫苑

汽笛遠く緩まるあたり島遍路

四国遍路の庵主によく当たる霊能力者がいる、と従姉妹が聞き付けてきたのが発端だった。霊能者なんて胡散臭くて普段は近づかないのだが、お遍路さんのバイアスがかかるとなんとなく許せてしまうから不思議だ。たまたま暇な時期だったので、私も両親に後にくっついてお詣りしに行った。

 

霊能力が本物かどうかは会ってみれば大体解ると言う。虚弱で肌の色が透き通るような人が多いらしい。私が訪れた庵主さんも色白で小綺麗なお婆さんで、目が殆ど見えていなかった。

 

この子の将来はどうでしょうか?と私の番になった。私の頭の上辺りをしばらく眺めてから、「この子には強い守護霊がついてます。大事に大事にしたい、他所にはやらん言うてます。ここまで強い霊は珍しい。龍神の様にも見えます。」と仰られた。両親は思い当たる節があったのか真顔で頷いていたが、私は(はぁ?龍神て?)と笑いを堪えるのに苦労した。

 

信じるか信じないかは貴方次第…後にも先にも霊能者に会ったのはその一度きりだが、何十年経っても覚えている所をみると、あの時の言葉に何かしら影響を受けたのかも知れない。龍神がついてるから大丈夫、とお大師様からお告げがあった事にしようと思う。

 

 

 

春泥を歩く汽笛の鳴る方へ 細見綾子

 

 

風のまま歩く菜の花加わらせ

学生時代、私は極力文字を書かずに過ごしていた。と言っても落ちこぼれていた訳ではない。ノートに書き写すのではなく、目で読んで片っ端から記憶する、そういう勉強の仕方が性に合っていたのだ。ゲームをクリアするのと同じ感覚で、問題と答えをセットにしてパターン毎に覚えていく、それが私の受験勉強。理数系を専攻していた人ならば、或いは共感してもらえるかも知れない。

 

社会人になってからは更に磨きがかかって、一時的なメモ以外、手書きで文字を書くことが無くなった。大袈裟な言い方だが、私の生き様の記録は私の頭の中にだけあるのだ。いつ死んでも大丈夫、見られてまずい物は残らない。そうありたい、綺麗さっぱりこの世から消えてしまいたい、と願っている。匿名で細々と続けてきたこの俳句群だけが、ネットの片隅に放たれて生き残っていく。

 

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外には気持ちの良い風が吹いている。

雲が心の中を通り過ぎるのを防ぐことはできないけれど、

最後に自分に必要なものだけが残されると信じれば、

もうそれで充分ではなかろうか…

 

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たんぽゝと小声で言ひてみて一人 星野立子